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7/28(木)はアメリカ・ニューヨーク在住のフラワーレポータ、佐藤めぐみさんからの報告です!

ゲイウェディング解禁!

先月ゲイパレードの時にお伝えした通り、
ニューヨーク州はアメリカで6つめの同性婚OKの州になりました。
その条例が施行された27日(日)シティホールのチャペルでは数百組が結婚式をあげる、
結婚ラッシュとなりました。州外からのカップルも多く、新たな時代の幕開けを感じました。
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その同じ週末、日本から宮本亜門さんがやってきました!

彼はもちろんウェディングではなく。。。。お芝居の上演のため。

宮本亜門演出の「金閣寺(英語タイトル:The Temple of The Golden Pavilion)」が
リンカーンセンターフェスティバルで上演されました(7/21-24)。
海外でも知られる三島由紀夫の原作を舞台化、
(彼が芸術監督も務める神奈川芸術劇場のこけらおとしで公演された作品)
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リンカーンセンターフェスティバルは、世界中から演劇やダンスなど
最高パフォーミングアーツだけを集めて毎年夏開催される、ニューヨークを代表する芸術祭。
亜門氏は2002年にも「太平洋序曲」で招待された。
同じ「太平洋序曲」ではブロードウェイ公演(2004−05)も。
今回は三島作品を引っさげてのニューヨーク再チャレンジ。
これまで2回とも見ていますが。。。今度のは本当によかった!

久々のニューヨーク公演を目前に、会場のローズホールで、
亜門氏と3人の主演男優(森田剛、高岡蒼甫、大東俊介)による記者会見、
この模様をテレビで見た方も多いのでは?

テレビではカットされてしまった? 亜門さんのとても興味深いインタビュー
今日はお届けします。

ここでちょっと物語について紹介しておきましょう。
「金閣寺」は1950年に実際に起こった「金閣寺放火事件」を題材にしています。
主人公の溝口は16才、お寺の息子ですが、吃音がコンプレックスになって
友達もできず孤独で、将来への夢も持てない少年。
そんな彼が、お父さんにいつも聞かされていたのが京都にある
「金閣寺」の信じられないほどの美しさ。
お父さんが亡くなった後は、「金閣」のある京都鹿苑寺に奉公に上がるのですが、
あこがれの「金閣」は溝口に乗り移ったかのように、
溝口のあらゆる行動をコントロールして破滅に導いて行く。
その呪縛から逃れて自分を変えるために、溝口は金閣を燃やしてしまうという物語です。

宮本亜門さんの記者会見で、いくつか聞きたかった質問をぶつけてみました。
まず「金閣寺」でアメリカ人にいちばん伝えたいメッセージは何ですか?

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photo by Romi Uchikawa


「ソンドハイムの「太平洋序曲」は、日本という舞台設定で
アメリカ人が作った作品だったんですが、今度は(日本人の原作ということで)
今までにないある緊張がありますね。三島の作品を歌舞伎、
能という古典芸能のオブラートをかぶっていない実験的なやり方で、
このキャストで上演することで、「現代の日本人」というものを見せたいんです。
それもニューヨークのアバンギャルドな人達や前衛的な人達に、
ぜひフェスティバルで見て欲しい。今までの作品とは違う反応があると思っています。
特にニューヨークのブロードウェイスタイルとはまったく違う作品を、
あえてこのキャストとスタッフでやりたかったという思いがあります。」

そのキャストというのは、主演3人の他に中越典子、高橋長英、岡本麗、瑳川哲朗などの
トップ俳優の他、大駱駝艦、山川冬樹など個性的なパフォーマーが独特の
亜門ワールドを繰り広げました。

では亜門氏が見せたい「現代の日本人」とは何でしょうか?

「やっぱり海外に来て、ニューヨークもそうだけど、皆さん日本の事をとてもよく知っているし、
日本好きの人はたくさんいらっしゃるんだけど。日本の文化や精神とか日本人の
“もがき”とか、そういうところがなかなかわかってもらえていないんですよね。
それがいつも海外で仕事してフラストレーションがたまるところなんで、「金閣寺」で
三島由紀夫が描く青年の、日本人の悩みだとか生き方とか、
生きることについての思いとか、そういう「気持ちの奥」みたいなものを
ちゃんと伝えたいと思ってるんですね。それは同じ人間なんだから絶対伝わると思っています。」


戦中戦後を舞台にしたこの作品のどこが、
「現代の日本人」を見せる事にどうつながるのでしょうか?

「今日本は、あの地震があって大きく変わり始めているのか、それとも変わらないのか、
大きなパラダイムシフトにかかっている時期と思っているんです。
「金閣寺」の舞台は戦中ですが、京都が爆撃でやられるかもしれない、という時に、
主役の溝口は「これが最後や、金閣燃えるんや」。
溝口は金閣寺が燃えることで自分が再生できると思ったんですね。
僕はそこがたった今の日本と重なっているような気がしているんです。
今の若い人達、もちろん僕もそう感じているけれど、
今の日本じゃない新たな日本に生まれ変わるのか? 
また自分自身の中でも新しく生まれ変われるのか、変われないのか? 
原発も含めて、大きな時代の変わり目に来ている。
それと溝口の悩みとか、彼がギリギリまで追い込まれている事も、
重なっているような気がするんですよね。
作品のテーマは「生きる」ということ。「それでも生きるのか」「どうやって生きるのか」というのが
深いところにあるので、今この時期にこの作品をニューヨークという街でやることで、
世界中から集まった色々な方達に見せられるのがうれしいと思います。」

亜門さんのメッセージがこもったこのお芝居、どんな反響があったのでしょうか?

まず始る前、ニューヨーカーのお客さんとはホールに入って、席について、
そこでみんなステージを見てぎくっ! としていました。
既に幕が開いている。。。まるで高校の教室のように、
黒板があって、天井に蛍光灯があって、というセッティングのステージなんですが、
もう俳優さんがスタンバっているんですね。
そして、突然物語が始ってしまうんです。

主人公の孤独な溝口をせせら笑うかのように、
大駱駝館の舞踏ダンサーが踊り回り、
彼の感情をコントロールする「金閣」は、「人間」の姿をして現れる。
(その役にホーメイ歌手の山川冬樹さん。アンドロジナスな雰囲気で異彩を放っていました。)
またセットも、歌舞伎の黒子のような役割の人が何人も常に舞台にいて、
お話の展開とともにものすごいスピードでセットが変り、
最後の炎とともに金閣寺が燃え上がるシーンにつないでいきます。

とくにこのセットに関して、専門家からは賛否両論でした。
ニューヨークタイムスは「派手なだけ」と辛辣にこきおろし、
一方でシアターマニアのレビューは「金閣が燃える部分だけで一見の価値あり」と正反対。
これもニューヨークらしいところです。
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私の感想を言うと、
ひとくちで言って、日本の古典芸術の文脈を残しながら、ものすごく前衛的で、
しかもスパイダーマンに代表されるようなブロードウェイ的に華やかで
わかりやすい部分もちゃんとある、
色々な時代のさまざまなモノが混在する、という部分はすごく日本的な感じがしました。
ある意味混沌とした舞台が、移り変わりの早い混乱した時代や、
人々の心の不安を表現している気もしました。

専門誌「バックステージ」では
「混沌」をこれだけの美しい芝居におとしこむことができるよい例、と書いていましたがまさに同感。

何といってもアメリカ人の観客が口々に言っていたのは、
主役の溝口(森田剛さん)が素晴らしかった。
吃音というコンプレックスをかかえてまったく自分に自信が持てず、
たったひとり孤独で、未来への希望もなく、他人を恨んだり傷つけてしまうという
その苦しみや悩みが痛いくらい伝わって来た、ということ。

それを見ながら、震災で苦しんでいる日本を感じた、という人ももちろんいました。
溝口が金閣寺に火を放った時に、
つい先日ノルウェーで起ったテロ事件を連想した、という人も。
孤独な青年の心の闇が生んだ悲劇が、世界中で繰り返されている、
それを思ってつらかった、という人もいました。


でも苦しみ抜いた最後に溝口は生きることを選ぶんです。
日本だけでなく、ニューヨークを含め世界中に大きな時代の波が来ている今、
多くの人が、何があっても「生きて行く」方法はあるんだ、
という希望を感じたのではないかと思います。


佐藤めぐみ   ジャーナリスト、プロデューサー ニューヨーク在住、J-POPからベースボールまで、 日本文化がアメリカでどう受けいられているかを中心にレポートするジャーナリスト、 アメリカのJ-POPファンのためのイベント 「SAMURAI BEAT RADIO(サムライビートレイディオ)」をプロデュース。 BLOG:http://ameblo.jp/meguminyFlowers