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2月22日(火)のフラワーレポーターはイタリア・ミラノでフットボールジャーナリストをやってらっしゃる新谷智子さんです!

◆長友選手が、インテルへ移籍となりましたが、急に決まった、まさに電撃移籍でしたよね?
なぜ、あのような形の移籍になったんでしょうか?


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poto by Tomoko Shintani


実は私は1月29日まで日本に里帰りしており、1月の移籍市場の経過は見ていませんでした。しかも、長友選手の冬の移籍(1月)は、全くの想定外、誰も予想はしていなかったはずです。その理由は、チェゼーナへの移籍がレンタルであったため、又貸し不可だから。それまでにもいくつかのヨーロッパのビッグクラブの長友選手獲得の「声」はありましたが、こうした理由により、「冬の移籍はないもの」と考えられていたのです。


ところが、私がミラノ、マルペンサ空港からの帰路で耳にしたのは、「チェゼーナが買い取りオプションを使い、FC東京から完全移籍をさせた」というニュース。これはただごとではありません。しかも1月の移籍市場が閉まるこの時期に、慌てて。絶対怪しい!これは何かあります。「どこかのチームが長友を獲得しようとしていて、チェゼーナは転売するために急いで買い取りをしたに違いない」というのがイタリアメディアの見方でした。


その時、長友選手の移籍先としてはミランとユベントスという見方が有力だったのですが、ミランは左サイドバックの選手を既に獲得済みということでアウト。そして残されていたのがユベントス。
実は、私も30日、31日とユベントスに絞って、関連ニュースを探していました。というのも、ユベントスのGMはベネチアで名波選手を、サンプドリアで柳沢選手を獲得した日本人びいきのマロッタ氏。そういう理由からも「長友獲得」はあり得るのではないかと思ったからでした。


ところが、移籍市場最終日の31日、朝からニュースを探していたところ、急遽、「インテルと交渉開始」のニュースが。イタリアの有料放送SKYの移籍ニュースが伝えたものでした。午後にはチェゼーナの関係者が、交渉の事実を認めるコメントをし、15時過ぎに「長友がチェゼーナを出てミラノに向かった」とのニュース。ここまでくればほぼ決まりです。私もインテルのクラブ事務所前で長友選手の到着を待つことにしました。


◆長友選手の移籍の発表の時は、現地は、どんな様子だったんでしょうか?


幸いミラノに住んでいますし、クラブ事務所も町の中心にあるため、日本人としては一番乗り(実際間に合ったのは2人だけ)。そこには既にイタリア人記者たちが待ち受けていましたし、TVカメラが待機するその様子に道行く人も足を止め、一時は人だかりができた状況でした。みんな「一体誰が来るんだ?」と興味津々ですが、実情は分かっていない様子。地元TVの女性がこれでは仕事にならないと言いながら、「チェゼーナの会長を待っているの」と言うと、「なーんだ」とその場を去っていく人が多かったのには笑えました。


ところで、肝心の長友選手の到着ですが、人目を避け(?)裏口からの入ったのが18:15頃。
移籍市場が閉まるのは19時。それまでに契約書をレーガ・カルチョ(Lega Calcio、イタリア・プロサッカーリーグ)に提出しなければ無効です。長友選手とのトレードでチェゼーナに行ったサントン、当初チェゼーナ行きに難色を示し、代理人も交えての交渉が長時間に渡り行われていました。やっとその交渉も終わり、サインのために長友選手も到着したのですが、その間、国際移籍証明書がまだ届かないというハプニングが。そしてようやく18:40頃事務所ビルから書類の束を抱えた一人のスタッフが無言で走り出てきました。その書類=契約書はバイクで待機していた別の人の手により、無事にレーガに納められたのは締め切り前10分を切っていたそうです。「締め切り3分前」というのは長友選手の代理人が、契約終了後に「57分だったんじゃないかな?」と言った言葉を私たちが伝えたためそうなりましたが(笑)。


その後全てを終えて長友選手が出てきたのは20:30前。さすがの長友選手も、この日ばかりは口数少なく、顔もこわばって緊張していた感じでした。あまりに短い間に、アジアカップの優勝、ビッグチームへの移籍と色んな事が起り、ご本人も周りのスピードについていけていないという感じだったのではないでしょうか。


◆名門・インテルですから、長友選手への期待もかなり高いと思いますが、現地での評価はいかがですか?


6日のローマ戦で初出場を果たした長友選手、15分の短い時間ながら2度の見せ場を作りファンを喜ばせました。デビューは上々と言えるでしょう。同じく後半に途中出場となったユベントス戦は、イタリア・ダービーと言われる熱い試合、難しい試合です。結果は1-0でユベントスの勝利。この試合での長友選手は可もなく不可もなくという内容でした。
そして、16日のアウェー、フィオレンティーナ戦で先発デビュー。レオナルド監督も言うように「初めての先発で、序盤は動きも固かった」し、連携もいまいちでしたが、「その後徐々に良くなって、彼の持ち味であるスピードも見せていた。」と監督も「とてもポジティブ」という評価を与えました。更に19日の対カリャリ戦(ホーム)では、初の先発フル出場も果たしました。初先発となったフィオレンティーナ戦に比べると良くなりましたし、フィオレンティーナ戦で酷評した現地新聞の評価も向上。


とここまでの総評はまずまずだと思いますが、来て早々にレギュラーをとれるほどインテルは甘くないと思います。
移籍後2戦目で途中出場、難しいユベントスとのイタリア・ダービーにも途中から起用され、4戦目のフィオレンティーナ戦で先発出場、5戦目で先発フル出場。そう聞くと順調にポジションが取れているように思えますが、その裏にはレギュラーサイドバック、キブの4試合出場停止があるわけで、それも19日のカリャリ戦(ホーム)で終わり。次節からキブが戻って来きますから、状況は変ってくることでしょう。しかし、インテルはリーグ戦に加え、チャンピオンズリーグとイタリア杯の試合もあり、過密スケジュールになってくるので、上手く選手を回していかなければいけません。けが人が多く、実はきれるカードもあまり多くないのが現状です。


「長友の獲得で(戦術の)オプションが一つ増えたが、それでインテルが変るわけではない。」とレオナルド監督は言うように、ゲームの途中で、流れを変えたいとき、攻撃的に行きたいときに使う切り札としての役割を期待されているということが分かります。または過密スケジュールを乗り切るためのターンオーバー(選手の入れ替え)での起用のチャンスはあるでしょう。長友選手はまだ若いし、向上心も強く、吸収力がすごいので、レベルの高いチームでレベルの高い選手たちとともにやっていくことで、より成長していくことでしょう。


◆インテルは世界各国の代表クラスの選手が集まる超ビッグクラブですが、なぜ今回、日本人選手を獲得することになったのでしょうか?


今回の移籍は、全てのタイミングが一致した結果だと思います。インテルにレオナルド監督がやってきたのは12月末、日本がアジアカップで優勝し、そのタレントが注目された1月、そのチームを率いたのがイタリア人のザッケローニ監督。この過程がなければこの移籍は実現しなかったでしょう。逆を言うと全てのタイミングが一致したからこそ移籍市場最終日に、この電撃移籍が成立したと思います。これは長友選手が持っている運なのかもしれません。


獲得を希望したのはレオナルド監督。鹿島でプレーしたことのあるレオナルド監督は日本サッカーに精通しています。過去にも機会があるごとに「Jリーグはずっとチェックしている」と言っていました。そのレオナルド監督が獲得を希望したのですから、長友選手がインテルでも通用するという見解をもっての獲得だと思います。他の選手にないもの=スピードを長友選手に求めていることは明らかです。更に伸びしろのある選手ですから、現状の戦力というだけでなく、今後の戦力としても期待できるという思いもあるでしょう。
ザッケローニ監督と師弟関係にあるレオナルド監督は、長友選手について何度かザッケローニ監督に電話で相談したそうです。
インテルはスター選手が集まるビッグクラブですが、けが人が多いのも事実。この数試合の交代を見ても、層が薄くなっているのは明らかです。そして、レオナルド監督は「攻撃的なサッカー」が好き。サイドを駿足で駆け上がって正確にクロスを上げる、そういう長友選手のプレースタイルを、「攻撃の切り札」として使いたいと思ったのでしょう。


◆「ジャパン・マネーが目的では…」なんていう報道もありますが実際にはどうなんでしょう?


インテルはお金を持っているチームなので、ジャパンマネー=スポンサー目当てというのは違うという見方もあります。お金よりも名声を高めたいという部分は感じられると思いますが。実は12月1日に行われたクラブワールドカップのプレゼンテーションに行ったのですが、その時にモラッティ会長の「日本に向けたメッセージ」がやたら愛想よく、この色気は一体何なんだろう?と気になるぐらいでした。ただその時にはまだレオナルド監督はいませんし、日本人選手を獲得するような雰囲気ではなかったのですが・・・
しかし、今回の長友獲得で押し寄せる日本プレスに対しても、インテル広報氏たちは異例の好待遇、とても親切です。今まではどちらかというと、インテルは「スノッブ」な印象があったのですが、「取材申請で問題があってもその場ですぐに解決するから。」とか言われると、一体どうしたんだろう?と思わざるをえません。いずれにしても取材しやすい環境であることは嬉しいことですが。


◆レオナルド監督はブラジル人で、選手も多くがイタリア以外の国から集まっていますが、チーム内でのコミュニケーションは、取れているんでしょうか?


長友選手は、レオナルド監督とはイタリア語と日本語を混ぜてコミュニケーションをとっていると言っていました。しかし監督は会見で地元記者から「日本語で一言」とか言われる度に、「ノーノー、日本語のことは聞かないでよ」と逃げ腰です。イタリア語はもちろん、フランス語など語学に堪能な監督ですが、日本語はちょっと難しいのでしょう。基本的にチームはイタリア語が話されていると思いますが、長友選手もチェゼーナの半年間でイタリア語もある程度大丈夫になったようで、練習なども通訳はついていません。オフィシャルTVの独占インタビューにも一人でチェレンジ、答えは日本語でしたが質問はイタリア語のみでした。最後の冗談交じりの質問には、ちゃんとイタリア語で答えていましたよ。もちろんその内容も 、いじられキャラとして、マテラッツィ(=いじる人)に「コウチーニョとどっちが背が高いか比べてみよう」と言われ、「実際どうなんですか?」という質問。長友選手はイタリア語で必死に「僕です。僕の方が背が高い!」と訴えていました。
普段の生活上ではチームに馴染んでいると思います。プレーの上では、他の選手たちの信用を勝ち得るだけのものを見せていく必要があるでしょう。今はあまりボールを出したがらない(?)スナイダーも、エトーも自分にゴールをさせてくれる良質のクロスを量産してくれる選手として長友選手を認識するとか、自分の後ろの位置でしっかり守ってくれるから安心とかいうものを感じてくれば自然に連携もできてくるでしょう。いずれにしても自動的に動くような連携ができあがったところに入るには時間が必要です。ピアノ・ピアノ(piano piano、ゆっくりゆっくり)見守りましょう。


◆長友選手がレギュラーとして出場していくためのポイントは、どんなところでしょう?


現在インテルで左サイドバックのレギュラーと言えば、ルーマニア人のキブ。長友選手はこの人のサブとなります。
右サイドバックのマイコンに対しての心情は、いまや「憧れとは言っていられない。お互い切磋琢磨していけるように」と同じピッチに立った後に変化しています。当然、見本になるような人のプレーを間近に見て、一緒にプレーするわけですから学ぶところは多いでしょう。
実は、次節そのマイコンが出場停止。右サイドバックもこなせる長友選手に、今度はマイコンの代理か?という期待も。27日のサンプドリア戦(アウェー)も楽しみですね。