金融危機を経て、今年のアイルランドのクリスマスの様子について
【国民の約9割がローマ・カトリック教徒】
◆アイルランドのクリスマスの風物詩といえば?
アイルランドのクリスマスは日本のお正月のようなもので、家族で過ごす大切な時。遠方に住む家族もクリスマスには帰省し、家族で、そして地元で親しい人たちと過ごすのが伝統的なアイルランドのクリスマスです。
12月になると商店街やショッピングセンターが込み合い、街の中も人の出が多くなるのですが、クリスマスのために皆がショッピングに出かけるからなんです。プレゼントやカード、クリスマスの期間を過ごすための食料品、家の中を飾り付ける装飾品など、アイルランド人はこの時期に一年でいちばんお金を使うのではないでしょうか(笑)。
民家のイルミネーション
ダブリンの目抜き通りのクリスマスツリー
クリスマス準備に欠かせないのが、クリスマス・ツリー。どこの家庭でもツリーを飾りますが、毎年、生の木を新しく買って飾りつけします。使われる木は日本語で「トウヒ」と呼ばれる木で、実はアイルランドはツリー用の木の産地でもあるんです。
アイルランドは北緯51~55度という高い緯度(樺太北部と同じ)にありながら、メキシコ暖流の影響を受けるため、緯度の割に温暖な気候。クリスマス用の木が育つのも他のヨーロッパ諸国より早いため、山から切り出されたトウヒの若木が、北欧諸国やヨーロッパ大陸の国へ輸出されています。
国内では、住宅地に近いところや道端にツリー用の木を売る臨時の露店などが設置され、皆、そこへ買いに行きます。この時期になると、開けっ放しにしたトランクにツリー用の木をくくりつけて走る車をよく見かけます(笑)。
露店で販売されるクリスマスツリー
首都のダブリンでは、11月下旬から大型のクリスマス・ツリーが各メイン・ストリートに設置され、商店街もクリスマス用にライトアップされています。
ドイツなどの影響を受けて、近年はクリスマス・マーケットなども開かれるようになり、クリスマス気分を盛り上げています。
ダブリンの商店街のイルミネーション
アイルランド語でメリークリスマス!
◆アイルランドの人々のクリスマス当日の過ごし方(クリスマスの休暇はいつからいつまで、25日はどう迎える?アイリッシュのクリスマスディナーなど)
学校は今週から来週にかけてそろそろクリスマス休暇に入りますが、多くの店や会社が12月24日の夕方までは通常通り。24日の夜からクリスマス明けの27日辺りまでが、本格的な休暇となります。
信仰心の厚い人や伝統を重んじる家庭は、イブの夜(もしくはクリスマス当日の昼間)に教会のミサに参列します。その様子は、日本での二年参りや初詣によく似ていますね。
25日のクリスマス当日は家庭で過ごす大切な日…ということで、かつては空港まで全部閉まっていたんですよ。私がアイルランドに来た10年前は、ダブリンではなく地方都市に住んでいたこともあり、24日の夜から街の中はパタリと人気がなくなり、店は全部、本当に27日まで完全に閉まってしまいました。アイルランド人に言われた通り、食料品を買いだしておいて良かったです(笑)。
クリスマス当日にアイルランドで行われる習慣の中で、ユニークだなと思うことは、「クリスマス・スイム」でしょうか。沿岸部に住む人たちの中には、クリスマスの朝に家族皆で海へ入るのを年中行事としている人たちが多くいるんです。
この時期、海の温度は10~12度位。外気温より暖かいので、冬用のウェットスーツを着れば大丈夫。(スーツなしで入る人もいますが…!)アイルランド人はどうやら、一年の節目やお祝い事の時に海へ入る習慣があるようです。
(昨年ラグビーのアイルランド代表選手が北半球一の王座に輝いた時も、3月のまだ水が冷たい時であったにも関わらず、公式な祝賀行事の翌朝に選手たちが海で泳ぐ様子がニュースになりました。)
祝い事にはもちろん、お酒がつきもの。クリスマスに飲まれるお酒と言えば、甘いワインやアイルランド特産のウィスキーをお湯で割り、レモンのスライスとクローブを浮かべて飲む、ホット・ポートやホット・ウィスキーという飲み物があります。
私の友人家庭には、海に入りながら甘く暖かいホット・ポートを飲むのをクリスマスの習慣としている家族もいます。
ホットポート
クリスマスのディナーは午後の遅い時間から始まります。この頃には誰もがほろ酔い気分となっているはず。
ご馳走の主役はロースト・ターキーやロースト・グース(ガチョウ)で、デザートのケーキは2種類作られます。一つはクリスマス・プディングと言い、レーズンやナッツを入れてお酒に浸したもの。クリスマスの数週間前から準備されます。もう一つはクリスマス・ケーキで、スポンジにアイシングをかけ、サンタクロースやトナカイなどで飾り付けます。いずれも市販のものもありますが、多くの家庭で今も手作りされています。
26日はアイルランドでは聖スティーブンの日という祝日。この日は山へ狩りに行ったり、近所を散歩したりして、食べすぎたお腹をこなす伝統があるのですが、多くのアイルランド人は二日酔いで家でゴロゴロしているか、もしくはさらに祝い酒を飲んでいるのではないでしょうか(笑)。
このクリスマス・イブからの数日間は、日本の大晦日とお正月三が日と大変よく似ていますね。
◆今年は深刻な金融危機を迎えていますが、クリスマスを迎えるアイルランドの人々の様子は?クリスマスショッピングはどうされていますか?
今回アイルランドがEUとIMFから正式に金融支援を受けることとなり、そのタイミングでが金融危機のニュースが世界的に流れましたが、アイルランドでは2年前から段階的に起こってきていることで、今に始まったことではない…といった感じです。
増税や社会福祉手当の削減などを含む厳しい緊縮予算案が発表され、国内でも連日ニュースとなっていますが、クリスマスを迎える人々の様子には、今のところ特に変わったところは見られません。多くの人が、年に一度のクリスマスなのだから、いつも通り心穏やかに楽しく過ごしたい…と思っているようです。
もともとアイルランドというのは、貧しかった時代の長い国。過去15年ほど経済がバブルして豊かになりましたが、それ以前のアイルランドは国内に際立った産業がなく、多くの人が海外へ移民することを余儀なくされていたような国ですので、打たれ強いと言いますか、現状をあるがままに受け入れるような国民性が出来上がっているのではないかと思います。
来年度の予算案に関して多くの批判や反対があるものの、多く人はとりあえず冷静に受け止めて、先のことは新年になってから考えましょう、といったような様子です。
◆アイルランドでクリスマスを過ごす 魅力を教えて下さい
この時期のアイルランドは、クリスマスに向けて大人も子供も皆がウキウキしているような様子がいいですね。私自身、仕事が一段落して静かになる時でもありますので、クリスマスの雰囲気を思いきり楽しむことができます。
クリスマスというのはそもそも、家族や友人に感謝し、誰もが幸せで心穏やかであることを願う日です。アイルランドではクリスマス前のこの時期、子供たちが募金箱を持って街角でキャロルを歌い寄付を募ったり、さまざまなチャリティー・イベントが各地で行われたりします。ダブリンでは週末に、サンタの衣装を着てマラソンをするイベントがあったのですが、参加費用の一部は心臓病患者を支援する団体に寄付されるというものでした。
アイルランドでは形だけでなく、クリスマスの本来の心が今も受け継がれているように思います。そんな雰囲気の中で、自分自身の感謝の心・慈悲の心を見つめ直すことが出来るのが、アイルランドでクリスマスを過ごす、いちばんの魅力だと感じています。
★アイルランドに行った際会話に花の咲く一言
What’s the craic? …「Craic」とは「(特にお酒や音楽に関連した)楽しいこと」の意。「最近どう?」程度の軽い挨拶として使われる、アイルランド独特の表現。
Nollaig Shona Duit! …アイルランド語で「メリー・クリスマス!」
☆山下直子さんHP:http://guidingireland.ie/
☆山下直子さんBlog:http://naokoguide.blog33.fc2.com/