VOLUME No.60(2007.9.15)

今回は8月に観に行ったというスティーリー・ダンの来日公演について語って頂きました。


 4回目の来日公演となった今回は、初のライブ・ハウス(クラブ&レストラン)公演で、東京・六本木のミッドタウンに新しくオープンした「Billboard Live TOKYO」でのライブだった。

ウォルター・ベッカー(ギター)、ドナルド・フェイゲン(キーボード&ヴォーカル)の2人に、
ギターがジョン・ヘリントン、ドラムがキース・カーロック(フェイゲンの2006年のソロ・アルバム「Morph The Cat」でも叩いている)、
ベースがフレディ・ワシントン、キーボードがジェフ・ヤング、バック・コーラスの女性2人に4管の総勢12人。正にスティーリー・ダン・オーケストラって感じの編成だった。
俺は4日間(4公演)を観に行ったんだけど、今回は1日2ステージっていう設定で、それでも1ステージに70分位は演ってくれたのは、嬉しかったな。
ネットで検索してみるとセット・リストは毎日、曲の半分位は変えて演ってたらしいんだ。ここ数年のライブは、このメンバーでやってるから余裕をもっての選曲って所なんだろう。
全公演通してオープニングは「Time Out Of Mind (80年のアルバム「Gaucho」に収録」)」。ちょっと意外だった。アルバムの中で大きな核となっているような曲でもなかったんだけど、
キース・カーロックのタイトな8ビートに乗ってウォームアップ的に音を確かめながらの演奏に、そんな曲が出てくるだけで感慨深くなっちゃう。
元々、ドナルド・フェイゲンがウォルター・ベッカーと目指していたのはR&BとJazzが融合されたようなバンド・サウンドでドナルド・フェイゲン自身はけっしてVocalistを目指していた訳ではない。
だからデビュー当時から彼自身が歌わない曲も数曲あった。
今回の来日では「Dirty Work(72年のファースト・アルバム「Can't Buy A Thrill 」に収録)」をバック・コーラスの女性2人がそれぞれ素晴らしい声を聴かせてくれた。
(この曲はアルバムでも彼が歌っている訳ではないが、米ツアーではゲストに歌わせているらしく、調べてみるとBonnie RaittやPhoebe Snowが歌った時もあるらしい)
それから何故か敢えてウォルター・ベッカーがユルユルの声で歌った「Daddy Don't Live In That New York City No More(75年のアルバム 「Katy Lied」に収録)」。
ベッカーの気の抜けた歌は頂けなかったが、それでも4回目の来日で初めてこの曲が聴けたのは嬉しかったな。
特筆すべきは確か「Chain Lightning(75年のアルバム 「Katy Lied」に収録)」のホーン・アレンジ。
それぞれのソロに続き聴こえてきた4管のホーン・セクションのソロ、いわゆるコード・ソロで、自由奔放に演るんじゃなくて、
トロンボーン、サックス、トランペット、バリトン・サックスの4本で和音を作って演っていくんだよ。50、60年代にカウント・ベイシー楽団とか5サックス、5トロンボーンなんかのセクション・ソロがあったけど
正にそんな感じで、もうむちゃくちゃカッコ良くてさ、やられた〜って感じだったよ。
そして「Aja(77年のアルバム 「Aja」に収録)」や「Do It Again(72年のファースト・アルバム「Can't Buy A Thrill 」に収録)」における
キース・カーロックのドラム・ソロは果てしなくかっこよく、それまで経験したことがないくらい鮮烈だった。拍手も一番多かったしね。
ホント演奏に関して言えば、もうどれも素晴しいとしかいいようがない。今まで彼らの来日公演を何度も観に行ったけど、全体のサウンドの凄さを聞かせる彼らのライブにおいて、
例えば楽曲だけでなく、ジャズ・クラブで誰々のソロのプレイを聞きに行くというのと同じように、曲中でのギターやサックスのソロも聴き所のひとつ、だから1曲の中で何度も楽しめるんだ。

 とはいうものの正直言ってしまえば、今回俺がホントに見たかったのはフェイゲンのソロでの来日。
彼のソロのライブでは、ほぼ「Morph The Cat」のアルバム・メンバーでやっていて、
2回目に彼らと来日したギターのWayne Krantzと前回も来日したギターのJohn Herington、この2人のプレイはギターアンサンブルとしては鉄壁かも知れない。
 かなり個人的な意見になるけど、スティーリー・ダンほどギタリストを大事にしているバンドはないんじゃないかな。楽曲ごとにギタリストを変えて録音する。
実際、彼らのファンはギタリスト好きが多いと思うし。的を射た非常にカッコいい、削ぎ落とされたギター・ソロの曲がいっぱいある。
そのスタイルも様々で過度に弾き過ぎず、かといって足りな過ぎず。そんなソロがあちこちで出てくる。それはライブでも変わらない。
 初来日の時のギタリストDrew Zingg、次はWayen Krantz、そして今回2度目の登場John Herington。
彼がスティーリー・ダンの一員として初めて来た時(2000年)の印象は、その前の2人があまりにも凄すぎて多少物足りなさを感じたけど、今回はすごくがんばってた。
元々アルバムとかで聴くと、もの凄く上手いギタリストなんだよ。やっとスティーリー・ダンの中で慣れてきたっていうかさ。どのソロをとっても素晴しかったな。
2000年のアルバム「Two Against Nature」からずっと関わっているけれども、スティーリー・ダンのツアー・メンバーの中では1番の古株になっちゃったみたい。今回は彼がバンマスとして紹介されてた。

 そして何よりもこのバンドを語る時に忘れてはならないのが「アレンジの妙」。どの曲も極限まで練られていて、かつプレイも素晴らしい。
アドリブとかフレージングのかっこよさのみならず、そこには同時にバッキングのカッコ良さもある。
例えば、12小節とか、6小節のソロを単にプレイするのではなく、そのソロをカッコ良く魅せる為の工夫や前後の流れがあるわけだ。
だからアレンジや曲の構成が、ものすごく勉強になるんだ。そのすべてが音楽的。だから、毎日でも観たくなっちゃう。

Steely Danというバンドはかなり聴き手を選ぶような気がする。例えば歌手であるならその人を評価する一番は声、あるいは歌のうまさ、曲の良さ。
好き嫌いはあっても、その評価は概ね同じようなものだろう。ところがSteely Danの場合、その人が聴いてきた音楽がかなり重要になると思う。
元々あったR&BあるいはJazzをベースに創り出されるそのサウンドは、それを知っているかどうかによって楽しみ方がかなり変わってくるだろう。
だからといって、決して気難しいだけの音楽ではない。ひたすら音楽に対して真摯であるだけのことなのだ。
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