2009年12月5・6日 「事業仕分け」

暁 >  「座・対談」のコーナーです。本日は参議院議員の蓮舫さんをゲストにお迎えしました。

高野>  先日、土曜日の天声人語の「きょう誕生日を祝う有名人」の中で「最も旬な人は参議院議員の蓮舫さんだろう。彼女は時の人にして、行政刷新会議の事業仕分けが終わった。鋭い舌鋒で注目されたその人を、傍聴席から見た。華奢だが、威風あたりを払う存在感だった」と書いてありました。まるで蓮舫さんへのファンレターのような記事だと思いました。

蓮舫>  この記事にはびっくりしましたが、ありがたい事ですね。

高野>  このような記事の場合は例えば、10年前に亡くなった人を取り上げるような事が多いのですが、現役バリバリの蓮舫さんが「きょう誕生日を祝う有名人」に掲載されるというのは珍しいと思います。

<事業仕分け報道に疑問あり!>

 さて、事業仕分けの話になりますが、私が一番気になっている事はマスコミの報道の仕方です。とりわけ、一番有名になった事は蓮舫さんの「スパコン」についてで、「何故、世界一でなければならないのか」という発言の部分だけが切り取られて何百回も流れました。

蓮舫>  あの場面だけに限らず、明らかに違う事業については私が質問、意見をしている事をくっつけて、あたかも一つの文脈にしているという発言もありました。私はテレビにいた人間なのでそのような編集技術もわかるのですが、視聴率のためならばという側面もなきにしもあらずなのです。

高野>  テレビがそのような切り取り方をするために、蓮舫さんの事を「あの生意気な娘は何なのだ」という話になってしまいます。私の「ザ・ジャーナル」のコンテンツでさえも、恐ろしいほどの罵詈雑言が書き込まれてきます。
 一方、新聞のほうでは、文句をつけながらも全体としては評価しているという論調だったと思います。

蓮舫>  今回、一番最初に仙谷大臣や枝野統括とも話をして、情報公開に関しては最初に決めました。記者クラブだけではなくて、フリーランスの方々にも全部情報公開をして、インターネットによってPDFの資料をつけると提案をしました。公開だけではわからないのでネットを見ている人たちにも分かるように、とにかく全部を出すようにしました。しかし、その決定をした時から逆に自分たちに返ってくるという事もわかっていました。ただ、ここまで反応が激しいとは思いませんでした。

高野>  逆に言えばそれだけ関心をもたれていたという事です。

蓮舫>  しかし、その覚悟がないところから先には進まないと思います。逆にメディアの皆様方には「では、今度から非公開にもう一回戻しましょうか」という自問を是非していただきたいと思います。

高野>  このように完全にオープンにしていったおかげで、私の「ザ・ジャーナル」のスタッフもカメラを持ち込んでいけたわけです。テレビはたくさんクルーが来ていましたが、切り取りのような報道しかしないという中で「ザ・ジャーナル」は最初から終わりまでネットで生中継をしました。

蓮舫>  私がオープンにしたのは、「ザ・ジャーナル」と、もう一つは「ツイッター」という新しいメディアです。「ツイッター」はつぶやくメディアですので、そのつぶやきが見えるように「ザ・ジャーナル」とは違う形で8時間生中継という開放をしていました。その映像を見ながら、ツイットしてつぶやいていくという新しいページ=ハッシュ・タグをつくって、そこも開放をしました。
 今回、あらためて思った事は、新聞は遅れたメディアだという事で、速報性がないと言われていてテレビがそれにとって変わっていたかのようだったのですが、結局、その先にもっと早いのは同時方向の「ザ・ジャーナル」のネットであり、更にそこにつぶやいて自分たちの感想を仕分けながらアップしていく事ができる「ツイッター」であるのです。このように考えた時に、メディア自体もいま、あり方を考えるよい仕分けのきっかけになったのではないかと思います。

高野>  生中継は「ニコニコ動画」もやっていましたが大変なアクセス数で、私は、これからはネットというものが段々と主流になっていくのだと感じました。

蓮舫>  私は以前、民放にいた者ですが、もし、私がいま民放にいたのであれば少なくとも午前、午後、8時間は無理だと思いますが1時間の枠は取って、今回の事業仕分けの緊急生中継をするべきだったと思います。

高野>  テレビのほうはそのような意識が全くなかったようですね。

蓮舫>  テレビはすべて切り貼りの編集になりましたから、編集をする時の編集能力がどうしても問われるのですが、実はその場にびっちりいた人が編集していなくて、テープだけを受け渡してもらったディレクターが編集をするので、面白い作品に仕立て上げるというのは仕方がない事なのです。

高野>  刺激的な部分だけを取り出すという事ですね。それはある意味ではテレビの本質なのですが、そのような本質的な限界が露呈したと思います。
 私は「ザ・ジャーナル」でスパコンの事も原稿に書きましたが、ノーベル賞学者の皆さんにしても、本当にスパコンの惨めな実態をわかっているのかと腹が立っています。

蓮舫>  世界に冠たる日本の技術力は1位でないとダメなのです。1位であることが当り前なのですが、実は、いまの現状を見たら1位には遠く及ばない技術水準であるという前提があった時に、予算要求する省庁が我々の素朴な質問に答えるところから事業仕分けが始まっていたのです。したがって、「何故世界2位ではダメなのですか?」というところに当然答えが返ってくると思っていました。それは、何故ならばこのような理由があって、世界1位になるためにここまでいま到達していて、来年、神戸にスパコンのハードができた時にはここまで技術者が集まって、そしてこのような波及効果があるのだという説明があると思ったのですが、答えは「世界一のスパコンで、世界一の技術を磨く」でした。次に出てきた答えが「夢です」で、そのような答えだと議論にならないのです。具体的な数値を出して、このような展開をしていくのです。では、このような考え方はありますか? というように質問が重なり合う事によって事業仕分けの意味が出てきます。スパコンにおいても、ハードそのものだけではなくてスパコンがあって、プログラムがあって、ソフトがあり、このソフトは3社いたのですが2社が撤退しています。更には人材育成があって、神戸に立地するためのお金があり、大きく分けると5つくらいになります。スパコン本体の必要性は誰も否定はしないとすると、残りの4つはスパコンの計画が始まった時にはなかったもので、どんどん増えてきています。よい増え方ならよいのですが、本当に必要なのかという事はいままでは密室の中で誰が決めているのかもわからなくて、科学で夢だから、世界一になるからというような理由づけのみで増えてきているのです。これは逆に言うと今回、文科省は一番よい機会を残念ながら見誤ったような気もします。ノーベル賞を獲った方々は自分たちの領域であり聖域でもあり、自分たちが結果を出してきてこの国を引っ張っているのですから怒るのは当り前です。しかし、彼らは、もしかすると我々の1時間の議論を見ておられないかもしれないのです。我々はスパコンの結果は廃止と決めていません。これは管直人、科学担当相、国家戦略担当相に預けるという意味で見送りという形にしたものでしたが、ノーベル賞の方々は「廃止とは許し難い」という会見をしていたのです。おそらく文科省の役人が、ある事ない事のない事だけをその日のうちに説明にいっていたのだと思います。

高野>  念のために申し上げますが、かつて1990年代において、日本のスパコンはアメリカに迫るくらいの勢いで断トツ世界2位でした。しかしその後、古いやり方にこだわっているうちに、いまは設置台数で言うと中国に負けて6位に転落してしまいました。このような状況の中で世界1位を目指すと言っていたのです。シェアで言うと世界に主なスパコンが500くらいあって、その内の50数%はアメリカが持っています。続いて、イギリス、ドイツ、フランス、中国、そして日本という順位になります。日本のシェアは設置台数の中の3%しかありません。この3%という猫の額のような土地にしがみついて、そこに1本だけ、スピードだけが早い日の丸の旗を立てようという思いなのでしょう。たった3%しかない敷地なのに何をやっているのだという話なのです。

蓮舫>  スパコンは3%でも計算機という部分においては飛躍的に私たちの生活を豊かにしてくれているので、技術を継承するという意味のほうがあるのだと思います。つまり、1か所で1つのスパコンで民間1社しか入っていないとなると、そこには競争が働きません。日本にあるすべての大学を拠点にして、若い研究者がいるところで、例えばスパコン開発に関わった金田康正教授はその発想で、1ペタを10個のコンピューターによって操る事ができる人とプログラムを作る事ができる人を育成したほうがこの国のためになるという意見が事業仕分けの中で出てきました。

高野>  その通りです。いまネットにおいても話題になっている、長崎大学がつくった日本でいま一番速いスパコンがあって、これは材料費だけで3,800万円です。間接費を入れても1億か2億でつくることができます。しかし、実在スパコンに1,200億円を投入するという話もありますが……。

蓮舫>  来年度の予算要求は300億円です。

高野>  仮に、1,200億円とすると1,200台くらいつくることができて、日本中のあちこちに存在するようになります。

蓮舫> それが実現すると、すべての大学にスパコンを設置して、若手の研究者が競争的資金を獲得する技術を身につけることができるのでこの選択肢のほうがよいと思いますが、最終的には政権が決める事で、あとは管大臣のご判断する事だと思います。

高野>  彼も理科系で工学系であり、鳩山総理も同じです。鳩山総理はコンピューターを使う専門家と言ってもよいですね。
暁 >  その一部しか科学者にいっていなかったという意見もありますがいかがですか?

蓮舫>  これは各大学の経理を大学側がもう一度キチンと整理をしたほうがよいと思います。私は今回、研究者の方々と相当話をしました。「独立行政法人化されて毎年研究費が10%、20%削減されている」と言うのですが、実は大学全体、旧国立大学全体の経理を見ると、確かに国からの交付のお金は減ってはいますけれど、一方では寄付金等が増えているのです。全体像で見ると確かに優秀な企業が引っ張っている側面はあるのですが、決して大学の運営費が減っているわけではなくて、それは研究者に名目上削られて、違う形で使われている可能性が否定できない状況なのです。更に、独立行政法人化した後に基礎研究よりも競争的資金をとる事と応用に重きを置かれると基礎研究が疎かになります。応用のお金をとるという事は、有名な技術者、研究成果、或いは、申請に慣れている大学がどちらかというと有利なのです。つまり、本当に研究施設がなかったり、地味だったり、リポートをまとめる能力が低い大学にはお金が少なくなります。この格差がいま一番の問題となっているのです。例えば、東大ならばたくさんお金がもらえるけれども、地方の独立行政法人は入学金もたくさんもらえるわけはないため、どんどん研究費が削られていくのです。この大学間の格差が事業仕分けの時に相当議論になりました。しかし、1行も報道されていません。

高野>  私はその事を全く知りませんでした。メディアはそのようなところをきめ細かくどのような議論が行なわれていたのかキチンと見せなければならないと思います。

蓮舫>  百歩譲って、事業仕分けは初めての事なので私たちも学ぶところがありましたし、メディアには是非色々と工夫をしてもらいたいと思っています。そのようなショーアップ的なところばかりがクローズアップされるのではなくて、税金の使われ方が表立った場所、つまり、ネットでも見る事ができて、国境の無い形で国の予算の使われ方の一部が決められているという事に政権交代をしたと思っています。

高野>  国民も全体としてはそのように思っていると思います。事業仕分けは中身がよく分からなくても7割くらいの人たちが良い事だと言って支持しています。その中でも実際に現場に行った人でミュージシャンの内田裕也さんもいました。

蓮舫>  結構有名な方々が来て下ったようで、アイドル・グループの嵐の桜井翔さんも来ました。

高野>  このように様々な人たちから関心が持たれて、実際に行った人たちは本当に報道のされ方がおかしいと言っています。

蓮舫>  ゆっくり見ると同じ空気を共有しますので、現場に来られた方々の中から失笑や苦笑が漏れるという状況があって、その原因を、説明をする各省庁の国家公務員の方々にも是非理解して頂きたいと思います。

<事業仕分けをしてみて学んだ事>

蓮舫>  民主党の仲間は、私も含めて野党時代は予算委員会の準備に半年以上かけて予算書を読み込むところから始めていました。したがって今回の事業仕分けの予算書を読む事は、私たちにとって難しい事ではなかったのです。しかし今回わかった事は、予算委員会で取り上げていた我々の質問が実に薄いものだったという事です。それは何故かと言うと、情報が無いためにそれ以上入り得なかったものを質問していたという事に気づかされました。更に今までの政府は、どんなに私たちが無駄や非平等性等の指摘をしても1円たりとも自分たちの出してきた予算案を見直す事がなかったのです。1月から3月迄の間、予算委員会を行なって、柔軟に与党でも野党でも、よい指摘があったのであれば大きな枠の中は変えずに、細かい整理統合の再編成があってもよいと思いました。そうすれば与党の議員も仕事ができるし、野党の議員もスキャンダルでつまらない質問の粗探しをする事がなくなります。これは自分が政治家として今回感じたところです。

高野>  いままでは1月から3月で予算審議をして最後に裁決が出るのですが、その裁決で出たものが元のものと……。何のために3カ月も議論をしていたのかと思ってしまいます。しかし、その事を誰も不思議には思わないで、裁決の時期はいつだとか、単独裁決なのかという事ばかりを言っていました。中身が変わって何か発展したのかという事については誰も問わないのです。

蓮舫>  国会において予算裁決は出口だと言います。こんな出口のために我々は議論をしているのではなくて、よいものをつくるために議論をするようになれば初めてそこで二大政党制が前に進むのだと思います。

高野>  キチンと修正が出されて、それについて与野党を折衝して、ここは思い切って変えようというようになればもっと国会の役割もでてくると思います。

蓮舫>  今回、事業仕分けに携わった少なくとも7人の国会議員は、この事を深く胸に刻んでおります。我々は政権を維持し続ける以上、当り前の国会の姿が今回は見えたので是非、目指していきたいと思います。

高野>  国会そのものの機能をそこに据えていかなければならないのですね。
 私はこれを地方でどんどん行なったほうがよいと思います。民主党の国会議員も地元で、或いは、地方議員がイニシアティブをとって行なう、そこの労働組合や市民団体、NPO等と協力して、市であれば市の仕分けを行なって、「このお金の使い方はどうなのだろう?」「何故、この町は救急医療が酷いのだろうか?」、「この橋は必要がないから止めて救急医療にお金を注いだほうがよいのではないのか?」等と素人がわいわいと議論をして、自分たちの町をどのようにしていくのか考えていく、つまり、国民運動的なものにして、仕分けのノウハウを広く伝授しながら行なっていくのです。そうすると、それは民主党が言うところの地域主権=地域の事は地域住民が自分たちで決めるという事の最良の練習になると思います。

蓮舫>  今回の事業仕分けはパフォーマンス的な側面がテレビを通じてショーアップされましたけれども、何故始めたのかと言うと、総選挙の時の約束で「お金の使い方を変える」というものがあり、お金の使い方を変えなければならない理由はお金が無いという事につきるのです。税収が伸びなくて借金が増えて次の世代に負担は残せないために事業仕分けという手段を使おうという話になったのです。私が国の仕分けをしていて思う事は、この国のサイズをつくらなければならないという事です。右肩上がりやバブルの時代の予算の発想によって説明をする側も、或いは、これまでの政府もやってきたからどんどん水ぶくれしてきているのです。そして、地方も全く同じで地方は人口が減って高齢化していき、社会保障の負担がこれから増えていく状況ですが、国と地方主権という形になった時に各地域のサイズがでてきて、この地域のサイズは何だろうという事を地域住民と一緒に考えていって、例えば農業によって生きていくのか、介護という産業によって生きていくのか、若者たちを何だかの形で繋ぎ止めてここから発信していくという生き方を選ぶのかは、実は事業仕分けによって相当見えてきます。私は隣の市と隣の町と同じような予算のあり方で満足していた議会の役割をもうそろそろ終えたほうがよいと思っています。そういった意味で、今後は首長の役割が相当大きくなってくると思います。

高野>  そうですね。これからは、政治に関心を持つ若者たちも首長のほうが面白くなってくると思います。

蓮舫>  千葉市長選、或いは、奈良市長選においても我々の若い仲間が当選させて頂きましたが、新しい時代のリーダーは絶対にでてくると思っています。その時に実は政党ではない時代が一番望ましいのかもしれません。

高野>  そのような事も含めて今回の事業仕分けの手法を国だけではなくて、地方でもみんなが自分で始めてしまうくらいになったのであればこの国も随分とよくなるでしょうね。

蓮舫>  全くそのように思います。