2009年10月3・4日「鳩山新内閣」について


暁 > 高野さん、季節は衣替えの季節になりました。番組も装いを新たに「オンザウェイ・ジャーナル~高野孟のラジオ万華鏡~」というタイトルでリニューアルしました。

高野 > この番組は3年続いていて、いま4年目に入るところです。ここで枠組みも提供時間も少し変わって参ります。いよいよ政権交代という事もあってこれからも面白くやっていきましょう。  
 
<ザ・ジャーナル〜鳩山新内閣>
   
暁 > まず初めは「ザ・ジャーナル」のコーナーです。今回のテーマは「鳩山新内閣」です。

高野 > 鳩山首相が誕生して日本国内の特別国会で所信表明をする前、つまり国民に向かってのデビューよりも前にいきなりニューヨークの国連総会において立て続けに3つの演説をしました。

暁 > いきなりの大仕事でハードでしたね。

高野 > 国際デビューが先になってしまうという珍しいタイミングだったと思います。それは偶然で、麻生さんが8月末に総選挙を設定したためにこのような事になったのですが、これがむしろよかったのだと思います。
 鳩山さんは華がありますし、英語でスピーチもします。おまけに幸夫人は明るくてニューヨークであちこちを飛び回り、英語でアドリブの歌まで歌い、さすが宝塚歌劇団出身だと思いました。
 このような二人のニューヨークでの明るい様子をみて、「政権が変わったな」というイメージを感じました。

暁 > 仲の良い二人をみて「友愛」を感じますね。

高野 > 鳩山さんが幸夫人に頭が上がらないだけなのです。

暁 > 鳩山さんはオバマ大統領とも結構渡り合ってきましたね。

高野 > 私が主宰しているブログページの「The JOURNAL」にきている読者の投稿をみると、「今日の鳩山はよかったなあ。今日もビールが美味しい」という内容のメールがきていましたから、あのような明るい映像が出る事によって一定の景気対策になっていて、ビールの消費が増えるかもしれません。

暁 > 鳩山さんは凄く国際的な方なのですね。私のイメージでは日本人っぽくない感じがします。

高野 > 国際的と言いますか、宇宙人と言われているくらいですから日本を遥かに超えているという事ですね……(笑)。外国留学の経験がある政治家は沢山いますが、その中でも鳩山さんはスタンフォード大学でドクターを取得しています。そして、専修大学で助教授をして、そのまま学問の世界に行き、我々にはよく分からない数理工学という学問を学びました。

暁 > 理系から政治家になるというのは珍しいですね。

高野 > そのような意味で言うと管直人さんも理工系です。中国は指導者が理工系出身の人たちが沢山いますが、日本では珍しいという事になります。

高野 > 鳩山さんが最初の外交デビューという事で日本国内でも驚き、国際的にも評価が高かった事は地球温暖化の中間目標を25%といきなり言ってしまった事です。国内調整も何も行なわずに鳩山さん一人の責任でスポーンと言ってしまいました。

暁 > 数字を言うというのは勇気がいる事ですね。

高野 > 実はこのやり方に鳩山さん個人のみならず、民主党政権の物事の運びかたの特長がでています。そこを見なければならないと思います。一昨年には福田さんが参加した洞爺湖サミットがあって、これは環境そのものがテーマでした。その時も一生懸命に目標を各国が調整して行なおうと根回しに根回しを重ねていましたが、結局すっきりしない形で終わりました。その後の麻生さんの時のサミットでも少しだけ踏み出すような事を口にしましたが、それも全部飛び超えていきなり25%という数字を打ち出したのです。いきなり数字を言ってしまって、どのようにしたら出来るのか後から考えるという思考方法なのです。
 これは、世の中では当り前で、例えば、経営者ならば年内にここまで達成するのだと目標値を言って、社員は「社長、そんな事言っても無理ですよ。どのようにやるのですか?」と言うと、社長は「そこが工夫のしどころなのだからみんなで知恵を出そう」となるわけです。向こうに設定して、手前に考えてくるという事は物事を成そうとする人はこのようにして思考するのです。
しかし、日本の場合には官僚政治が続いていて官僚が全部根回しをして、その根回しする形でどんどん角が取れていって、だんだんと小さくなってしまうのです。そして、「みなさん、ここまで縮めればいいのですね。それでは大臣に言ってもらいましょう」という流れになっていました。つまり、官僚は実現出来る事しか言わないという事です。しかし、出来ないかもしれないけれどもやりたい事を言うのが政治家なのです。

暁 > 本来のリーダーシップの在り方がきちんと整ったのですね。

高野 > したがって、前原国交大臣が「八ツ場ダム中止の方針は変わりません」と平然と目標を言ってしまうわけです。まわりの人たちは、「そのような事を言ったって、この57年間の住民の苦しみがどうなるのだ」とか、「4千600億円の内、3千200億円を使ってしまったのにどうするのだ」等と言います。しかし、それはその目標をはっきりさせた上で後から調整すればいいという発想なのです。

暁 > 確かに大事な事はぶれてはならないので、先に目標はきちんと言っておくという事がこれから物事を進めていく上で必要ですね。

高野 > 「やれば出来るだろう」、そして「出来なかったら責任をとります」、これでよいのです。いままでは責任をとりたくなかったために「誰が考えてもこれだったら問題なく出来るだろう」と話が全ていまの現状から1センチ前に出るような事になってしまい、「ここまでは根回し出来たからこれはやると言って結構です」「では、言おう」。というような感じだったのです。官僚が全てを仕切って、政治家は言わされていたわけです。新政権は『政治と官僚の関係を変えよう』という事がテーマとなっています。

暁 > 新政権が始まってまだ数日でその在り方がでているというわけですね。

高野 > 最初に25%という数字をスポーンと出した事からその特長がでたわけです。しかし、新聞やマスコミは「いきなり言ってしまうのは不安だ」とか、「軋轢が予想される」等という事ばかり書いていました。彼らはその意味がわかっていないのです。いままでの全てを調整し終わった最低限の数字を言うものだとマスコミも含めてみんなが思っているので、突拍子もない事を言っていると官僚と一緒になってマスコミも懸念を表明しているという事です。

暁 > 本来の政治家のあるべき姿を遠慮なくやっているわけですね。

高野 > 岡田克也さんも同じで、「インド洋の給油活動はやりません」と先に言ってしまっています。某外務官僚は「アメリカと話がついていないのにそんな事をどうして言ってしまうのだ」と言っていました。そして、マスコミも「日米関係が不安だ」等と書いていました。しかし、相手=アメリカは怒らないのです。

暁 > クリントンさんの答えは結構友好的でしたね。

高野 > インド洋について言うと、オバマさんは選挙中から「イラクからは撤退するけれどもアフガニスタンは兵士を増やしてでも軍事的に勝つのだ」と言ってきました。私は選挙キャンペーン当時、この考え方は無理で間違いの元だと言っていたのですが、オバマさんが政権に就いて、この春にもその方針を言いましたし、現地からは4万人を増派してくれと言っていて、この10月にそれを決断しなければなりません。しかし、これ以上アメリカの若者を送って犠牲を増やすのかと議会は反対をしています。そして世論も反対しています。これが大きな理由でオバマさんの支持率がかなり落ちています。しかし、オバマさんとしては選挙中から言ってきた公約なので突き進もうとしているわけです。これでいよいよ困った事になっていて、ホワイトハウスの中でオバマさんはこのような立場になり、ご意見番と言われているバイデン副大統領は「アフガンから撤退しよう」と言っています。アフガニスタンでタリバンを相手にして内戦に首を突っ込んで戦っても果てしがなく、何の生産もありません。戦争は主としてパキスタン北部にいるアルカイーダを特殊部隊でやっつけるという事だけに絞って、本来はテロとの戦いを行なうべきなのです。つまり、バイデン副大統領はタリバンを相手にして内戦の間に入ってぐちゃぐちゃになっている状態を全てやめてしまえと言っているわけです。

暁 > それも普通に聞くと正しい事ですよね。

高野 > まだ正しいのです。しかし、実は北パキスタンに本当にアルカイーダがいるかと言うとほとんどいないのです。オバマさんとバイデンさんの選択肢を考えるとまだバイデンさんのほうが正しいというわけです。それをめぐって正副大統領がいま激論をしています。

暁 > オバマさんはどちらかというと「兵士は送らない」と言うと思っていました。

高野 > 彼は選挙中から「送らない」という考えに凝り固まっていました。それで、アフガンから引いてしまうかどうかという事を正副大統領が激論している時に、アメリカにとって日本がインド洋で時々行なっている給油活動の事等は、はっきり申し上げてどうでもよい事なのです。そんな事を議論している暇はないのです。政治上は小沢さんも岡田さんも、おそらく鳩山さんもみんなその事を知っています。そのような事を知らないのは日本の新聞記者やマスコミばかりです。したがって、「そんな大事な事=給油活動をいきなりやめると言ったらアメリカがどんなに怒るかわからないではないか」という様な事をマスコミは書いているのです。これははっきり申し上げて阿保としか言いようがありません。

暁 > 心配ばかりしていても変わらないですね。

高野 > 変わるという事はいつも心配な事なのです。リスクをかけて変わるわけです。

暁 > 25%の事やインド洋の事といい、期待できますね。

高野 > 先に目標を設定してそこから逆算してできるかできないかという事を詰めていく。つまりできないというリスクも孕むわけですから、本当に約束通り実行できなかったのならば責任をとってもらう、という政治家の一番いさぎよい態度ではないでしょうか。

暁 > 民主党の内閣はそのような政治家の態度が徹底されているのですね。

高野 > その姿勢ははっきりとしていると思います。

暁 > 期待できる大臣のかたはいますか?

高野 > 厚生労働省の長妻大臣がいます。厚生労働省は凄く守備範囲が広いので医療、雇用問題等がありますが、彼は本当だったら年金のプロとして副大臣をやりたかったのです。

暁 > 冷遇された様子がテレビで報道されていましたね。

高野 > 初当庁したのに拍手がおこらなくて笑顔もありませんでした。本当は長妻さんとしては副大臣で年金問題のみを担当したかったのでしょうが、スターなので大臣に就かせようという事だったのでしょう。少しかわいそうだったと思います。

暁 > 野党からも大臣がでましたね。

高野 > 亀井大臣も突然「借金を全てチャラにしろ」というような事を言って突然暴れ始めました。

暁 > 本気で言っているのですか?

高野 > 本気です。あの発言は面白いのです。いま中小企業が銀行から負っている借金、及びサラリーマン等が負っている住宅ローン等も含めておよそ300兆円あります。例えばこれを長期、短期を含めて10年で返済するお金が300兆円あるとすると、単純に年間30兆円を返済していく事になります。そして3年間は金利だけを払います。亀井さんは金利も払わないでよいと言っていましたが、あれは駄目でとんでもない勘違いです。銀行は金利だけ払っていれば金利収入があり、借金そのものは消えるわけではないのですが、返済を3年間延ばすので資産は減らないわけです。お金を借りている側はどのようになるのかと言うと、年間30兆円分を本当は返済しなければならないから社員の首を切ろうと思ったけれども、それをやめる事が出来ます。また、思い切って別の分野に仕事を拡大するための設備投資に500万円を使いたかったけれども、お金を返済しなくてよい期間があるのならば実行できます。

暁 > そうすると、亀井さんは煮詰めた上でのあのような発言だったのですね。

高野 > そうだと思います。いずれにしても、内閣が替ってこのようなハプニングも含めて非常に政治が面白くなってきたと思います。

暁 > 毎日めまぐるしく変わっていきますね。

高野 > なかなか目が離せません。

<後半>

<高野孟の趣味的万華鏡〜高野孟のプライベートな時間>

暁 > 「趣味的万華鏡」のコーナーです。今回は高野さんのプライベートな時間についてお話を伺おうと思います。高野さんにはプライベートなお時間はあるのですか?

高野 > プライベートな時間はなかなかありませんが、あるとすると、旅先でポコッと夜が空いてしまうという事が時々あります。先日は釧路に行って昼から講演をして翌日、同じ主催者で隣の帯広でやるという予定でした。その日は釧路に宿泊しました。
いまは釧路・根室の秋刀魚が最盛期です。今年は秋刀魚が豊漁で根室と釧路は秋刀魚の水揚げの最初の地域となっていて、そこからだんだんと三陸沖、そして房総におりてきます。その夜、主催者の人に港の横の屋台街のようなところに連れて行ってもらいました。そこでは秋刀魚づくし。秋刀魚の刺身から始まって、秋刀魚のしゃぶしゃぶも食べました。新鮮な今朝揚がった秋刀魚でなければあまり美味しくないでしょう。そして、「なめろう」という漁師料理で味噌を混ぜたりするもの、寿司、焼き秋刀魚等、長い生涯ですが一日にこれだけ秋刀魚を沢山食べた事はないというくらい秋刀魚を食べました。

暁 > 何匹くらいの秋刀魚を食べましたか?

高野 > 累積はわかりませんけれども、全国に行って旬のものをその土地で頂くというのは一番の贅沢ですね。

暁 > なるほど。毎日がそんな時間だったらよいですね。

高野 > はい。

暁 > 高野さんは他にもいろいろな趣味をお持ちなのでまた別の機会にお聞きしたいと思います。