090208「佐高信特集」要旨

2009年2月8日OA分 
佐高信

湯野>  先週のお話を受けて、今朝はどんなテーマでお話をしていただけますでしょうか?

佐高>  アメリカに端を発して、世界に荒れ狂った「新自由主義」というものを日本との絡みでお話して行きたいと思います。

湯野>  「新自由主義」をご説明していただけますでしょうか?

<新自由主義は旧自由主義>


佐高>  私は「新自由主義」の「新」を極めて疑問に思っていますが、これは、「色々な規制緩和をする」と「国営の企業を私営にする」という二本柱で始まったものです。しかし、競争というものは、そもそも大学生と幼稚園児が同じスタートラインからよーいドンとスタートしてもこれは競争にはならないわけです。せめて、中学生と高校生くらいの競争にしなければなりません。そのためには、ある程度の規制が必要なわけです。大きくなった会社は悪い事をして大きくなったのではないとしても、大きくなった事で分割しなければならないのです。何故ならば、そうしないと競争にならないからです。
     資本主義の憲法として、独占禁止法があります。これは、巨大になった企業は巨大になったが故に、分割をする・・・・・・、アメリカで言うと、IBMやAT&T等の大きな会社は「独占禁止法の分割の規定」の脅威にいつもさらされているわけです。日本もトヨタ等の大きくなった企業は大きくなったが故に、分割しなければならないのです。これは競争を成らしめるために必要です。それを全部、取っ払えという事になると、大きくなった企業はどんどん大きくなり、小さい企業はその大きな企業に太刀打ちができなくなります。まさに大人と赤ん坊の競争になるわけです。したがって、私は「新自由主義」ではなくて、「旧自由主義」だと思います。つまり、ジャングルの自由に戻すという事なのです。これは、まさに弱肉強食の自由です。このような中で中央と地方、大きな企業と小さな企業の格差がどんどん広がってしまい、彼らの言い分としては、「大きくなった企業が小さな企業に雫が垂れるように利益をもたらす」。しかし、そのような事はあり得ません。したがって、地方に行くと商店街等は「シャッター通り」と呼ばれるように、寂れてしまっているのです。これも、まさに新自由主義にならぬ、旧自由主義がもたらしたものだと思います。
     そして、規制緩和というものは一方では、「安全緩和」なのです。分かり易い例で言うと、規制緩和によって東京ではタクシーが物凄く増えました。ある種、パイが限られている所にタクシーの台数だけがどんどん増えて、水揚げは下がります。更に、それを補うためにかなり無謀な運転でスピードを上げたり・・・・・・、水揚げは減るし、事故は増えるという問題が現在出て来ています。しかし、ある一定の規制は当然、必要になりますが、全部取っ払ってしまったのです。これは物凄く安易な形をとったのです。小泉さんを見ていれば分かりますが、「ぶっ壊す」と言いながら結局、自民党は壊れていません。このような壊し屋を私は「信号機を壊したのだ」と言っています。信号機が壊れた状態で車が走っている・・・・・・。これはどういう意味かと言うと、例えば、マンションの耐震偽装の事件の時に、不動産業者のヒューザー社長で小嶋進という人が逮捕されました。私はこの人と話をした事があって、彼には彼の言い分があって、彼は「自分は審査が通らなかったものを売ったのではない」と言いました。これは、カンニングをしたのかもしれませんが、確かに審査は通っているのです。何故、審査が通ったのかと言うと、審査機関にまで民営化という名の会社化をしてしまったわけです。したがって、会社化すると公正というものは下に来て、利益が一番上に来てしまって、審査が緩くなってしまったのです。そして、ヒューザーのような会社が出て来て、「小嶋という奴は悪い奴だ」と言う話になり、審査を通してしまった審査機関の責任や国土交通省の責任等は何処かへ行ってしまいます。やはり、審査やチェックは必要なのです。しかし、そのようなものも全部飛ばしてしまったわけです。
     私は、国鉄の会社化、分割には反対でした。実は、田原総一朗という人がいて、彼は20年くらい前には国鉄の分割・民営化に反対していました。そして、彼が当時、北海道のある町の町長と話をした時に「国鉄が赤字だ、赤字だと言うけれども、消防署や警察が赤字だと言いますか?」と言われたそうです。その頃の田原総一朗はその通りだと思ったのです。いまは違いますが・・・・・・。
     つまり、赤字、黒字で計ってはならないものがあるのです。消防署は赤字、黒字では計りません。「赤字、黒字では計ってならないもの」=「公のもの(public)」も全部、赤字、黒字で計るように竹中平蔵等がしてしまったわけです。

湯野>  それを民営化と呼んだのでしょうか?

佐高>  民営化という名の会社化です。私は民営化とは言っていません。会社化なのです。
     国鉄はJRになって、JR東日本、JR西日本で大事故が起こりました。
    そして、「郵政民営化」=「郵政会社化」です。郵便局を会社にした事によって、会社にすると不採算部門は切り捨てられます。つまり、山奥の郵便局はどんどんなくなって、過疎を物凄く進めたわけです。田舎のお爺さん、お婆さんにとって郵便局はライフラインです。政治というものはそこに光を当てなければならないにも関わらず、民営化という名の会社化にしてしまって、「黒字でなければダメだ」と言うわけです。そして、いま、政治の手が及ばない地域というものを日本の中にどんどん増やしているのです。私はそれが最大の問題だと思っています。
     私は「民営化」= 「privatization」は、民営化ではなくて会社化だと言っていますが、津田塾大学の准教授、萱野稔人さんは「私物化」と訳しています。つまり、公のものだった国鉄等をまさに、一部の人間の私物にするという事です。これは、いま、問題になっている「かんぽの宿」に繋がって行きます。「かんぽの宿」をオリックス・グループの不動産屋が買うのです。オリックスのリーダーの宮内義彦は小泉内閣で規制緩和の旗振りをしていた人です。そして、宮内が民営化ならぬ会社化の結果の「かんぽの宿」を自分のところで買うのはおかしいのではないのか? と鳩山邦夫総務大臣が待ったをかけたのです。これは、政治において珍しくまともな指摘だったと思います。
     結局、自分のところに転がり込むわけなので、改革でも何でもないわけです。小泉純一郎の正体は、自分の息子に後を継がせるという事なので彼も改革者ではなく、化けの皮が剥がれました。そして、宮内義彦も同じです。自分のところで貰うのでは全く改革ではなく、私物化の象徴です。

湯野>  いま、お話を頂いただけでも小泉構造改革、小泉・竹中路線が出て来ました。それを振り返る時期ではないかと昨年あたりからずっと言われてきていますが、やはり、
佐高さんは間違いだったと思われていますか?

佐高>  はい。完全に間違いだったと思っています。そして、メディアの責任は大きいのです。私が小泉批判をやっていた頃は、メディアへの登場回数は確実に減りました。全部が小泉万歳でしたから・・・・・・。そして、今度の金融危機でアメリカの「FRB」=「連邦準備制度理事会(註)」前議長のグリーン・スパンが議会に呼ばれて、過ちだったと謝りました。しかし、日本で国会に小泉や竹中らを呼んで謝らせるという事はないのです。また、あの二人も謝らないのです。そして、小泉、竹中の最悪の間違いは「新自由主義」の元凶である、「アメリカに近寄り過ぎた」という事です。
     私は「ドルは軍票だ」と言っています。軍票は戦争をしていて、例えば、日本軍が旧満州の中国や南方に色々と侵略した時に、自分たちがいるところに通用するお札を発行したもので、軍事力を背景にして使わせるのです。つまり、アメリカも軍事力を背景にしてドルを使わせるわけです。ドルは「基軸通貨」=「Key currency」で世界の何処に行っても通用するものです。したがって、日本であれば、円との換算、およそ100円で1ドルと言うように、円の力はドルを鏡として分かるわけです。しかし、ドルはドルなので、鏡がないのです。つまり、お金が足りなくなればいくらでもお札を刷れるわけです。そうすると、自分のドルの力がどのくらいあるのか分からずにどんどん刷っているのです。つまり、為替というものがアメリカ人には分からないわけです。これが、サブプライムローンの大きな元となっているのです。軍事力を背景にして、自分のところのドルを相対化、客観化が出来ません。アメリカが出す国債を世界で一番買っているのは中国で、その次くらいが日本です。ドルの力が落ちるという事は、アメリカ国債の値段が下がるという事です。
     面白い話があって、国として日本がアメリカ国債を買っている例があり、各民間銀行が買っている例もあります。これを合わせるとどれくらいの金額になるのか財務省はなかなか発表をしませんが、一説では、300兆円と言われています。日本の国家予算が約80兆円、つまり、4倍弱になるのです。
     橋本龍太郎が首相だった頃、「売りたい誘惑に駆られる」とアメリカに乗り込んだ時に言いました。その一言だけでアメリカ経済がガタガタになりました。実際は日米同盟が基軸だと言っているので売る事は出来ませんが、「売りたい誘惑に駆られる」と発言したのです。果たして、これでいいのか? 「アメリカが日本に依存している」のかもしれません。そして、よく言われるのは「日本がアメリカに依存している」です。もし300兆円を売るとアメリカ経済はガタガタになるので売れませんが、これは買ったものなので、理論的にはこの300兆円を売ると言う事が出来ます。つまり、日本の官僚たちは、「そんなにアメリカべったりでいいのか?」とは考えないという事です。日本の官僚の中の官僚である大蔵官僚、財務官僚は消費税を上げる事ばかり考えています。消費税を上げてまたアメリカ国債を買われてしまったのならば堪りません。そして、都合の悪い事は発表しないわけです。このように300兆円のアメリカ国債を買っているという事を国民は知らな過ぎます。

(註、連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board) 。1913年の連邦準備法(Federal Reserve Act)を根拠法として設立された、アメリカの中央銀行である連邦準備制度 (日本における日銀に相当) の最高意志決定機関。議長、副議長各1名を含む7名の理事で構成される。議長・副議長・理事は大統領が上院の助言と同意に基づいて任命する)

<バラク・オバマと麻生太郎>


湯野>  いま、お話に何度も出て来たアメリカですが、1月にオバマ大統領が就任しました。
佐高さんはこのタイミングで日本としてはアメリカとどのような関係を築いて行くべきだと思いますか?

佐高>  オバマという人は差別というハンディキャップを負いながらそれを克服して出て来ました。それをアメリカ国民は推し出したのです。日本の首相の麻生太郎という人は逆に様々な差別発言をして来ましたから、オバマと比べると力量が違い過ぎるのです。
     オバマがこれからリーダーシップを発揮すると思いますが、アメリカには様々な問題があります。イラクからは撤兵しますが、アフガニスタンは増派します。このように様々な矛盾を抱えていますが、差別を追っている人を大統領にするような難局突破の意気込みを桁違いに見せるわけです。
     私は日本の外交は基本的に経済外交を含めてアメリカと中国であると思います。「日米関係は日中関係である」という言葉もあるくらいです。つまり、日本はアメリカと仲良くする事によって中国を牽制し、中国と仲良くする事によってアメリカを牽制するようにこれが基軸となっているのです。小泉という人はアメリカばっかりだったのです。つまり、小泉はアメリカと中国という二次方程式を解けなかったという事です。そして、安倍晋三は一次方程式ですら解けなかったのです。福田康夫に至っては方程式を解く気がありませんでした。麻生太郎は方程式を読めないと私は思います。これでは全然話にならないのです。

湯野>  今年は総選挙が必ずある年です。
佐高さんの言葉を借りると、日本政府は頼りないにつきるという内容のお話だと思いますが、私たち有権者側はどのように日本の政治を見て、つきあって行けばよいでしょうか?

佐高>  政権交代させるという事が一つの腐敗を取り除く大きな方法なので必要だと思います。しかし、民主党というものも、「第二自民党」と言われるくらいに体質が似通っています。ただし、その中に野党へ渡るのであれば、共産党や社民党等の豆腐の苦汁のようなものをカッチリと入れておかないと政権交代の意味がないわけです。
     私が二大政党制というものが眉唾物だと思うのは、小選挙区制という名の「一人区制」だからです。1つの選挙区から1人しか出て来ない事を改めなければ信念を持った政治家は出て来ないと思います。これはどういう事かと言うと、小選挙区制という名の「一人区制」では、51%を取らなければなりません。それは、70%とか80%を目指して歩留まり51%となるわけです。そうすると、例えば保守の政治家が、「自分はイラクに自衛隊を派遣する事は反対だ」と思っていても、それが8割ではないために、言えないわけです。中選挙区制においては、一選挙区から3人とか4人出て来るので分割をすれば15%の支持の人でも出て来られるのです。そして、色々な声が国会に反映されます。しかし、一人区制では49%の声は切られてしまいます。

湯野>  小選挙区制は一人しか当選が出来ないという事ですね。

佐高>  そのような声が反映される選挙制度にもう一度戻さなければ、まともな政治家は出て来ないと思うのです。

湯野>  今年は大きな転換点になると思いますが、最後に、私たちは今後の政局をどのように見ていくべきかアドバイスを頂けますか?

佐高>  その前段として、繰り返しになりますが、「政権交代」と「官僚」です。やはり、長く政権与党にいたところは官僚との癒着が激しいわけです。官僚が物凄い力を持っています。一方では「役人天国」です。私は役人の「役」は厄介者の「厄」であると思っています。これを打ち破るためには政権交代しかないのです。