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室伏広治選手(男子ハンマー投げ金メダリスト)

 
これは銀メダルが決まった直後でのインタヴューである。その後まさかの逆転劇。まだこの時点で、彼が金メダルに繰り上げになるとは誰が想像しただろう。本人ですら予測出来なかった…。
しかしながら彼の肉体や精神はまだまだ進化の途上にある…。

井門 「銀メダルというのも、ご自分の中では納得の銀メダルということなんでしょうか?」
室伏 「メダルはもちろん金の方が良いと思いますけれども(笑)。まあ自分がやってきたことに関しては、自分のステップをしっかりと踏んできているなという実感はありますからね」
井門 「飛距離を伸ばすコンディションとしては、例えば3投目の時に他のトラックでピストルの音がなったりしましたよね。あの時はどういう心理状態だったんでしょうか?」
室伏 「もうやはり(オリンピックが)普通の試合とは違うというのは、もちろん最初から分かって臨んでましたし。もう最初からそのつもりでいましたから、落ち着いて対処できました」
井門 「選手紹介の時に、ひとりひとり大ヴィジョンに映るじゃないですか。室伏選手が紹介された時に笑ったんですよね、ニコッと。それがもの凄く痛快だったんですよ。あの時ってどんな気持ちだったんですか?」
室伏 「画面を通して自分が元気だ、がんばるぞっていうことをみなさんに伝えてですね、安心させて競技に臨みたいと思ってました」
井門 「振り返ってみて試合自体は楽しめましたか?」
室伏 「自分のペースを保って、投げることができたんじゃないかと思います」
井門 「先ほど独特の雰囲気とおっしゃっていましたけれど、独特の緊張感はありましたか?」
室伏 「試合自体だけではなくて、その何日も前から緊張っていうのは襲ってきますよね。そういう不安との戦いっていうものは、みんな選手は持っているんじゃないでしょうかね」
井門 「世界の中でも室伏選手というのは、どんな選手からも注目されるハンマー投げの選手。それだけにプレッシャーもまたひとしおだと思うんですよ。そういう時の解消方法なんてあったりするんでしょうか?」
室伏 「プレッシャーをうまくプラスに変えていくというか、それもまた自分のエネルギーにできるように転換していくことじゃないでしょうかね。人それぞれ考え方は違うかもしれませんけれど、マイナスがきたらそれをプラスに変えていくっていう心理的なこと、技術的なことが必要になってくるんじゃないかなと思います」
井門 「すべての大会、どんな投てきも経験にして身につけていくような気がするんですが。今大会はどんな経験になりましたか?」
室伏 「普通に自分の試合をただやっていくだけではなくて、オリンピックっていうこれだけの試合というものには、何か大きなものが動いてますよね。勿論競技をやる時は競技に集中しなければいけないわけですけれども、自分がどの観点から見ているのかということが非常に重要で。例えば、まず色々な戦争やテロがあるっていう中で、オリンピックが行われるわけですよ。そこにはやはり沢山の人が、このオリンピックは成功したら良いなと思う人がいるからこそ、成功するんであって、もしそこでどうでも良いやなんてみんなが思ってしまったら、もうオリンピック自体がないわけですよね。だからまずは行われることが重要なことであって、みんなの願いがそこで叶っていくわけですけれど。選手としてもそういうことを知って、そういう観点から見ることが必要じゃないかなって思いましたけれどもね」
井門 「ハンマー投げって自分の体1つで、ハンマーをいかに遠くへ飛ばすっていう競技じゃないですか。ハンマー投げの奥深さって何ですか?」
室伏 「普段の生活の中で回転するっていうことはないので、なかなかその回転する競技っていうのを理解していただけないかと思うんですけど。種目によって独特の雰囲気がありますが、ハンマー投げはやはり何かこう三半規管を刺激するような競技で、何か投げることが気分爽快みたいな。で、それが特に上手くいくと体に良い響きがあって、その感触が何ともいえないんですよ」
井門 「今回の投てきを終えて、色々な課題が見えてきたかと思うんですが、今後の課題については?」
室伏 「いや今やっていることの継続以外はないですね。まだ途中段階なんですよね。今こうだったから失敗でこうということじゃなくて、あくまでも今はステップを踏んでいる段階で、特に何も変えることもないんです。どちらかというと視界がどんどん開けていくような感じなんです。今新しい動きをやっているんですが、すべてが見えるようになる頃には、更に素晴らしい記録が出るんじゃないでしょうかね」
井門 「競技以外の思い出って何かありますか?」
室伏 「アテネの人たちって凄く明るいですよね。何かのんびりしていてですね。来た当初は何かせかせかしていたんですけれど、これぐらいのんびりやんなきゃだめだなっていう気持ちで、何か気が楽になりましたけれども」
井門 「そういう意味では、アテネでのオリンピックって良かったのかもしれませんね」
室伏 「そうですね。のんびりして」
井門 「今陸上をやっている子供たちは、室伏選手にすごく勇気づけられたのではないかと思うんですが、そんな子供たちに何かメッセージを」
室伏 「陸上競技っていうのは、トラック&フィールド。フィールド競技の中で跳躍競技や投てき競技なんかがありますけど、投てきも非常に面白いと思います。投てきもやっていただきたいと思いますけれど(笑)。自分に向いている競技を見つけて、その競技が面白いなと感じるような練習や、体を動かしたり遊んだり、まずは遊びから馴れ親しんで、本格的にやる人はオリンピックを目指してもらって、メダルのとれるような選手も出てきてほしいと思っていますね」

 8月29日、国際オリンピック委員会(IOC)は、ドーピング(禁止薬物使用)疑惑の男子ハンマー投げ金メダリスト、アドリアン・アヌシュの違反を容認。銀メダルだった室伏の金メダル昇格が決まった。
ところで、この時期(8月24日)ロシアで2機の旅客機が墜落したという悲しいニュースが入ってきた。原因はチェチェン共和国の独立を求めるテロ武装勢力の可能性と言われた。死亡者は89名。
「テロや戦争という中にあっても、(だからこそ)平和の祭典(オリンピック)を願い、成功させよう」と室伏は願う。彼のこのグローバルな視点から、われわれが得るものは大きい。TOP

<室伏 広治>
1974年10月8日静岡県生まれ。中京大学大学院卒業後、ミズノ(株)ヘ勤務。縁起かつぎは、心が落ちつく、おいしい、あたたかいコーヒーを飲むこと。
 
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