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VOLUME 02

なぜ、声を出すことに注目? ベストセラー『声に出して読みたい日本語』の背景 齋藤 孝(明治大学文学部教授) 聞き手 中田美香(JFNパーソナリティ)(2004.5.12収録)

 
ラジオの世界にいると、声を出して何かを言う(伝える)ということは、必須条件である。声を出すことに注目し、『声に出して読みたい日本語』という大ベストセラーを世に送りだした、筆者に、その真意を聞いてみた。

「声を出す」ということ
中田 「齋藤さんといえば、枕詞のような『声に出して読みたい日本語』の著書と…」
齋藤 「名刺に刷りたくなりますよね(笑)。私が死んだ時にもこれ(この見出し)が出るんだろうかと、私の人生がほとんどこれで塗りつぶされてしまうかのような感じなんですけど(笑)」
中田 「ミリオンセラーで現在は第3巻まで出ておりますけど。暗唱・朗唱して欲しい日本語の数々っていうのは(版を重ねても)いとまがないですか?」
齋藤 「そうですね。もうこれはやればやるほど出てくるなって言う、不思議でしたね。最初やった時になくなく落としたのが多かったんですね。でやっていくとどんどんこんなのもあるんだと」
中田 「そういうのは選ぶ時も、ご自身で声に出してみたりするんですか?」
齋藤 「絶対やりますね。それも一人じゃなくて何人かで。小学生にも読ませました」
中田 「響き方とかそれぞれ違いますもんね」
齋藤 「実際にやってみないとね、分かりませんね。目で見るのとは違うんですよね。テキストのヴァージョン違いが幾つかあるものがありましてね。読みふりがなでいうと、どっちとるっ?ていうのがあって、それは響きが良い方をとりましょうと」
中田 「でもそういう試行錯誤は楽しいんじゃないでしょうか?勉強という感じがしませんよね。さて、ご専門は教育学と身体論とコミュニケーション技法論とありますが、今さらながら、なぜ声に出すということに注目されたんでしょうか?」
齋藤 「私、呼吸の研究をしていたもので体の方の研究してまして。身体論の方なんですが。ヨガをやってまして、呼吸をコントロールすることで、自分の精神をコントロールすると。またコミュニケーションするのを体ごとやったりと。そういうのを考えていたところ、今授業でも言葉というものを黙読することが多いんで、もっと声に出して、呼吸と一緒に言葉を味わうということをやりたかったんですね」
中田 「最近腹式呼吸っていうのがなかなかできないって、口で息を吸うという子供が多くなっているということですが」
齋藤 「そうなんですよ。そもそも鼻呼吸が出来ていない子がいまして、口開けっ放しっていう子がいますよね。鼻呼吸しないと良くないんですよ。お医者さんに言わせると、あれは免疫力が低下するらしいですね」
中田 「そういった意味でも、声に出すということはつながっているんですね」
   
言葉に宿る言霊
齋藤 「声に出してリズムをとって言うと、息が強くなってくるんですね。例えば、昔で言う謡(謡曲・能の文句)のようなものをやると(息が)強くなってくるんですよ」
中田 「それが強くなると、声の響きの美しさって言うのも発見できますよね」
齋藤 「やっぱりあの日本語って言うのは、もともと大和言葉っていうのは文字のないところから出てきているわけですよ。だからずーっと文字のない時代だったんですね。でたまたま中国から漢字が入ってきて、それで音に当ててったわけですね。ですから音だけで成立していたんですよ。だから例えば<たちつてと>って音がつよいですよね。で<ち>の字っていうのは、赤い血も乳の<ち>もそうですし、霊魂の<霊>っていう字も当てるんですよ。そういう意味で言うと、一音が色々な意味を持っていたんですね。音の持つ語感って言うのが意味を豊富に持っていたので、言霊思想っていうのが出たんですよね」
中田 「ラジオをやっていますと。音しか頼るものがないので、音ひとつでいろんなニュアンスの伝え方がありますよね」
齋藤 「今までで言うと、<まいちゃん>っていう名前多いですよね。<まいちゃん>ってつけるのと、<ちよ>ってつけるのでは違いますよね。うちの死んだおばあさん<ちよ>ですけど、すっごいきつい性格で(笑)。お姉さんは<かよこ>ですけれども、これもきつい性格で(笑)。それが<まなみ>とか<まい>とかだったら少し違うかもしれませんね」
中田 「私は<みか>ですから…」
齋藤 「ああ、微妙なところですね(笑)。けっこう強いかもしれませんね(笑)。そういう音が、言葉が与える影響ってありますよね」
   
にほんごであそぼ
中田 「さて日本語を題材にしたテレビ番組『にほんごであそぼ』の企画・監修をされていますが、拝見していますと大人も楽しめますよね」
齋藤 「これはスピーディな番組でして、毎朝10分間月〜金で、これは見て欲しいですね。もうありえない幼児番組です(笑)。大人も楽しめる。一瞬一瞬でどんどん切り替わっていきますよね。野村萬斎さんの<ややこしや?ややこしや?>とか、あと<じゅげむ>が流行りましたよね」
中田 「遊びの中にこのことばあそび、早口言葉が入れられているわけですよね」
齋藤 「<驚き、桃の木、山椒の木>とか、こんなこと言う子供、今いないでしょう。でも僕らの頃はまだこういうことを言っていましたよね。<当たり前田のクラッカー>とか言ってましたよね。そういう古いものも番組の中で受け入れられたのでね。ある意味自信持ちましたね。子供達って言うのは大丈夫なんだと。あ、それから、今のラップって韻を踏もうとするんですよね、あれは面白いですね。言葉の後ろを捕まえて、英語のある種の終わり方を見て、日本語ではそういうのがないだろうかって探しているみたいなんですよね」
中田 「ラップは、漢文・古文からの今の進化系なんでしょうかね?」
齋藤 「漢文って韻を踏みますよね、漢詩なんかは。近い感覚ありますよね。必ず語呂合わせを入れていったりとか。そういう遊び感覚があって楽しいですけどね」
中田 「今の子供たちが大きくなって、詩を書いたり、ラップを書いたりしようと思った時、どんなことを綴るのかなって興味ありますよね」
齋藤 「ん〜ん、そうですね。やっぱり違ってくるかもしれませんよね。あと今、古い言葉と方言って日本語の宝庫なんですよね。だから方言持っている人は強いですよ、これからは。『声に出して読みたい方言』っていうのを作ってやったんですよ。名古屋弁で『雪国』をやるとか。もう台なしって感じなんですよ、でも方言の力って凄いですね」
中田 「私も番組をやっていると、リスナーからのメールなんかで、本人は意識してないと思うんですが、何気なく方言が出ていたりするんですね。でも難しいなっと思うのは、それを読み手である私が受け取った時に、やっぱり地方で育った人には(その読み方・方言は)かなわないというか。どう真似ようと思っても、ちょっとニュアンスが違ってきたりするんですよね」
齋藤 「やはり日本語の幅として方言、古語、漢語ですね。だから四字熟語なんかはラップとかに良いんじゃないですかね、使うとね(笑)。<一網打尽!一目瞭然!>とか入れていくと面白いんじゃないでしょうかね(笑)」
中田 「今度、先生のCDをお出しになって下さいよ」
 
齋藤メソッド
中田 「さて大学では授業を、そして小学生には<齋藤メソッド>という塾を開いてらっしゃいますが」
齋藤 「うちの塾は寺子屋みたいなもんですけど。まずは四股を踏んでいただいて…(笑)」
中田 「齋藤さんご自身が子供だった頃と、今の子供って如何ですか?」
齋藤 「子供はあまり変わっていないんですね。大人の方が変わり方は激しいな」
中田 「じゃあ教育法だったり、環境が変わってきてしまったというのが大きんでしょうかね」
齋藤 「そうですね。子供は素読やろうとかって言うと、もうすーっと入ってきますからね。それから何回かやってふらついていたのが、ちゃーんと最後には相撲とれるようになりますからね。たとえばうち(齋藤メソッド)では、おんぶして朗唱するっていう動作が多いんですよ。おんぶをした側が何か言うんですけどね。下っ腹に力入れて。やっているとおんぶしたまま四股踏んだりできるようになったりしますよ」
中田 「そういう教育は私は受けてこなかったですが、(今の教育においては)今からでも間に合いますね。親子共々楽しくできることとか」
   
3色ボールペンは必須!
中田 「最近は連載なども多いので、どのように時間を使っているのか最後にお伺いしたかったのですが…」
齋藤 「僕、意外に(ものごとを)並行的にやるのが良いと思っているんですよ。例えば本だったら10冊いっぺんに読み進めていくっていう。1冊読んで次にいくっていうから、みんな止まっちゃうんですね。自分のモードに合わせて、夜だったらこの本というふうに合わせてやっていくって言うのが良いですよね。あと時間の管理では、手帳を凄い大事にしていますね。手帳にしっかり3色ボールペンで書き込んで、これは赤の用事とか、シュミレーションしておくんですよ。会議の時とか暇でしょ(笑)。そんな時に次のパターンのシュミレーションをしておくんですよ」
中田 「では齋藤さんの場合3色ボールペンはなくてはならない存在なんですね」
齋藤 「私3、4本持ってますね。なかったら本も読めないし、手帳も付けられないし。大事な用事は赤。プライヴェートでのお楽しみは緑。まあまあかなっていうのが青ですね(笑)」 TOP


<齋藤 孝>
1960年、静岡生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科学校教育学専攻博士課程等を経て現職へ。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
HP:http://www.kisc.meiji.ac.jp/~saito/
 
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