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「タイムマシン」の生みの親でも有名なH・G・ウェルズ。 彼の「宇宙戦争」は火星人が地球に襲来するという物語である。 アメリカでラジオドラマ化された時、 リスナーが本当の事件と勘違いしてパニックになったという。 このラジオを演出したのがオーソン・ウェルズ。 「市民ケーン」を監督して以来、映画史の頂点にいまだ君臨し続ける 大監督である。 このラジオドラマについてのエピソードはあまりにも有名だが、 実際にそのラジオを聴いたことのある人は多くないだろう。 去年有隣堂をブラブラしてて、たまたま英会話のコーナーを見ていたら、 このCDが教材として陳列されていた。 伝説のラジオドラマが教材である。我が目を疑いつつ、思わず買ってしまった。 全編ラジオニュースのスタイルをとっていること自体が斬新で、 だからこそ例のパニックを引き起こしたわけだし、 ラジオという絵のない世界を逆手に取ったその着想と手法は まさに天才のなせる技なのだろうが、 驚いたのはその点よりもむしろ、 その完成度の高さだった。これほどまでとは予想だにしなかった。 ほとんど映画と言ってもいいぐらいである。 そこでふと考えてしまったのである。 ラジオで映画が作れないか? 確かにラジオドラマというものは 過去も現在も存在する。 しかしそうではなくてなにかもっと映画的な世界。 折しも巷ではショートフィルムがかすかに脚光を浴びたりして、 なにか新人の登竜門的な位置づけだったり試みだったりが、 僕の回りでも起きはじめていた。 確かにショートフィルムは短い分だけ予算は安くすむ。 しかし安い分だけ短いのだ。 コスト計算をすれば、短い分だけ単価は安くなかったりして、 なかなか難しいジャンルである。 でもそれがラジオだったらどうだろう。 映像はいらない。 イメージや発想さえあれば「宇宙戦争」なんていうSFですら可能なのだ。 正直映画をやってきて思うのは、映画というジャンルにまだまだ未知の可能性がある、ということだ。ただしそれを実現してゆくには 従来のスタイルでは駄目だというのも痛感するところである。 ラジオ版の「円都通信」が目指すのは、 かっこよくいえば未知なる可能性の探求ということになるのだろうが、 オーソン・ウェルズのひそみにならえば、究極の悪戯の探求、となるのかも知れない。 岩井俊二
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