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VOLUME 01

「本を読んで欲しい」 鳥越俊太郎×花田紀凱

 
生涯一編集者を自称する花田紀凱と、新聞記者、雑誌編集者、そして、現在はテレビ、ラジオとさまざまなメディアで活躍するフリージャーナリストの鳥越俊太郎。実は公の場での対談はこれが初めて。

花田 「雑誌、テレビ、ラジオとメディアの体験から、その違いは何ですか?」
鳥越 「基本は一緒だと思いますけど、ただ違いを意識したのは言葉です。訛り! 僕は九州ですから、福岡の方言で訛りがあるんです。最初テレビに出たとき、電話、ハガキ、手紙など、もう(視聴者からの)抗議がすごかったんですよ。なんであんな訛りのある奴を出すんだと。当時はやっぱり標準語でなくてはテレビに出てはいけないというのがあったんですよ。そういう意味で喋り言葉と活字の世界と違うのかもしれませんね。それにテレビというのは、ある一部分だけが肥大して伝わってしまうので、なかなか全体像が伝わらない。それを伝えようとあれこれ喋っていると時間が来てしまってね……。ラジオはそういうことが少ないからまだいいですよね」
花田 「関西大学社会学部で教鞭もとる鳥越さんが見た、いまどきの学生とは?」
鳥越 「今の学生を見ていると相当レベルが低い。授業では必ず学生に新聞を読んでいる人は手を挙げてと言うんですが、二割くらいですね。それもマスコミ志望のクラスでだよ。ではニュースを何で知るのかと問うとテレビという声が多い。ニュースを全然見ていない子もいる。将来を考えると、活字を読まない学生がふえているのが恐ろしい。本を読まないと脳の抽象能力がなくなる。活字って記号じゃないですか。記号を一回頭に入れて、それで具体的にイメージして具象化し、ものを考えたりするわけでしょう。その抽象と具象の行ったり来たりは頭の中で変換キーを押しているわけです。活字を読まないと、その抽象機能がだんだん衰えてくるんです」
花田 「(話は変って)鳥越さんはテヘラン特派員の経験がありますが、イラク問題をどう見ますか?」
鳥越 「花田さんもご存知のとおり、週刊誌で外国ネタをやっても全然売れないんですよね。アメリカ大統領選をやっても絶対週刊誌は売れない。日本人は海外に関心がないんです。でも今回のイラクは、自衛隊も行くことだし、日本人の外交官も殺害されていますから、関心は伝わってきますけどね。僕がイランにいたときは、すでにイランはイラクと戦争していました。当時からイラクはサダム・フセインが大統領でした。僕はイラン側から取材していましたが、間違いなく化学兵器を使っていました。サリンです。クルド族の村で、女性や子供たち、老人がバタバタ倒れている写真を見ました。毒ガス特有の死に方でした。あとで土から採取して調べたらサリンだとわかったんです。ただ今回は、化学兵器を探しても出てこない。日本にいて話を聞いていてもよくわからなくて、とにかくイラクに取材に行かせてくれと言いつづけてるんですよ」
花田 「鳥越さんが取材された桶川ストーカー殺人事件についてですが」
鳥越 「桶川ストーカー事件のときは、ご両親が一切の取材をシャットアウトだったので、手紙を書いたんですよ。筆ペンで。筆で書くと一文字が大きいですからね。そうすると、1枚に20字から30字くらいで、枚数からいうと30枚くらいになるんです。筆で30枚の手紙をもらってごらんなさい。やっぱりギョッとしますよ」
花田 「どうしてもくどきたい人がいたら手紙がいいんですよ。手紙をいきなり破く人はいないでしょう。電話だと切られてしまう」
鳥越 「書いた人の想いが伝わるような気がするんですよね。文が下手だろうとなんだろうと。ご両親のところには取材の申し込みがいっぱいきてたんだって。でも、みんなワープロ打ちとか、ボールペンとかで、役所の文章みたいで、何も印象に残らなかったそうです。心を一番伝えたいときは、アナログな手を使ったもののほうが心が伝わるんですよ。僕は学生にもそう言ってるんですけどね」
花田 「小泉政権はどう思われますか?」
鳥越 「小泉政治って何だろうなあと、最近だんだんわからなくなってきたんですよね。改革、改革と言って出てきて、国民のすごい支持を受け、今でも支持率は結構あるんですが、実際に、具体的に何かやったことがあるのかなと考えると、あまりたいしたことはやってないんですよね。道路の問題だって腰砕けになってしまったしね。かけ声は、改革、改革と言っているわりには、いまひとつだなあと」
花田 「中曽根さんが言ってるように、理念がないんじゃないですか?」
鳥越 「そうなんですよ。哲学がない。中曽根さんは戦後政治の総決算ということで、電電公社をNTTに、国鉄をJRにとか成功させてきましたよね。とことんやりました。でも中曽根さんとは違うんだよね」
花田 「急に上場した会社みたいなものですよ。上場した会社はいろいろなことをぶちあげていないと株が下がって、株主に叱られますから、次々といろいろなことを言うんです。結局、どれもほとんど実現しないんですが、でも実現しなくてもいいんです。その時に、株が上がれば。それと同じ」
鳥越 「自分の在任中は株価を維持しても、辞めたときに大変ですよね」
花田 「現在の政党については?」
鳥越 「自民党という政党は、世界でも珍しい政党なんですよね。こんな政党ないですよ。もともと近代市民社会の政党というものには、フランス革命の合言葉にもあるように、自由、平等、博愛、この三つの価値観がありますよね。自由と平等という価値観が一緒に並んでいるので同じ系統の価値だと思っているけど、自由と平等ってのは、ぶつかるんですよね。だって、自由競争をどんどんやっていけば弱肉強食で平等でなくなるでしょう。平等を追求していくと自由がなくなってくる。日本がそうですよね、唯一成功した社会主義と言われているんですから。だから、自由民主党というのは、戦後ずっと左はおそらく共産党くらいの左から、右は右翼よりもっと右よりくらいの人まで、全部ひとつの政党の中にいたんです。だって、自由と平等が一緒なんですから。そこに別個、民主党と自由党ができた、そして民主党と自由党が合併した。ということは第二自民党ができたわけだ。自民党が二つあるんですよ日本は。これからこれがシャッフルされて、もう少しわかりやすくなると思う。今はわかりづらいんです、あと四、五回も選挙やればなんとかなるでしょう」
花田 「最後に、若い人に向けて何かアドバイスがあれば……」
鳥越 「若い人には本を読んで欲しいですね。記憶力って二十歳くらいを最高にしてどんどん落ちていくんですよ。そのことは歳をとって初めて気がつくわけ。自分の記憶力がいかに落ちるかと。だから若い人は、記憶力が落ちない今のうちに本を読み、映画を見、恋をして、ケンカをして、いろいろな経験をいっぱいしなさい、それが全部、四十を過ぎてから生きてくるから」 TOP
 
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