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6月8日(火)のフラワーレポーターは、パリでオペラの演出家をされている釣 恵都子さんです!

◆パリのお天気や街の様子は?


今年は例年よりずっと寒く、まだ薄手のコートが手放せません。


◆『オペラ演出家』とは?


簡単にいうと、よく皆さんがイメージしやすい、「映画監督」のオペラ版といえばよいでしょうか?作品準備の際には俳優やオペラ歌手のキャスティングも行いますし、作品のコンセプト(方向性)を決定し、その後、どのようなセットで、どのような衣装で、小道具や照明は、などと細かいことをバランスを考えながら他のスタッフさんたちと決めていきます。そして実際のお稽古のときには俳優さんの演技や動きを決めていきます。


◆パリの前にウィーンにいらっしゃった釣さん、
世界三大オペラ座といわれるウイーン国立歌劇場にてお仕事をされた経験がおありだそうですが・・・


ウイーン国立歌劇場には4年半いました。現在はパリで研修中なのでウイーン国立歌劇場でのお仕事はお休みをもらっています。ウイーン国立歌劇場では、演出助手研修生、舞台装置助手、演出部、照明課、衣装部などの分野にたずさわりました。どの分野も何百年という伝統に裏付けされた、非常に高度な技術を持っていて仕事をしている人は皆誇りを持って仕事をしています。中には30年40年も続けて仕事をしている上司たちがたくさんいて、その人たちから歴代のスターたち、例えば指揮者のカルロス クライバーや、カラヤンなどが
どのように仕事をしていたのかなど、話を聞くこともできます。ここ3年ほどは主に照明課に在籍していますが、もうすっかりなれた仕事内容だというのに仕事をするたびいつも新たな事に気づかされていました。本当にたくさんのことをここで学んだのです。


◆ヨーロッパでのオペラや演劇の身近さ


ウイーンは、立ち見席が300円ほどで買えます。この席だととくにドレスアップする必要もないのでウイーンのオペラ座は街の中心に位置していることもあり、本当にたくさんの人が仕事帰りに気軽にオペラにいきます。新聞にはほぼ毎日のようにオペラの批評や新作品の前評判などが大きく載っていたりします。よくウイーンの人は誇りを持って「私たちのオペラ座」というのですが、それだけこの劇場はウイーンの人たちが愛しているのだと思います。去年の春からウイーン歌劇場では歌劇場横のスペースに備え付けられた巨大スクリーンで誰でも無料でライブ中継のオペラを楽しむことができるようになりました。このライブ中継は暖かい季節の春と秋に限られますが、(夏期は劇場が2ヶ月間お休みします。)音楽の都、ウイーンでオペラをすこーしだけ体験してみたい、という人には
とても気軽でよいと思います。


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俳優の控え室


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俳優やスタッフの食堂。みんなで大きなテーブルをかこって毎日ご飯をいただく。


◆パリのエンタメ、劇場について


パリには数百年の歴史を持つ、歴史的建造物で「オペラ座の怪人」の舞台でも有名な、オペラ ガルニエ、と20年前に最新設備を備えて誕生した、オペラ バスティーユがあります。オペラ ガルニエ は最近はもっぱらバレエが中心に公演されています。内部の内装は
シャガールの天井画などもあったりととても美しく豪華です。これらを見たい方は、日中、内部見学ツアーもやっていますのでそちらでみられるのもよいかもしれません。オペラ バスティーユはフランス革命のバスティーユ牢獄で有名な跡地を歌劇場にしたもので、ガルニエとは対照的にとても近代的な内装の歌劇場です。舞台の総面積はヨーロッパでも最大規模のものですし、舞台技術もとても優れています。舞台裏はスタッフにとっても仕事がしやすいように、劇場内部で稽古場から、舞台装置作成、衣装制作部、舞台装置保管まで、何でも一つにまとまっていて便利な作りになっています。今後更なる発展の楽しみな劇場といえるのではないでしょうか。


◆オペラを楽しむコツ・見所 


オペラは難しいしよくわからない、と嫌煙してしまう方も多いかと思いますが、考え方を変えてみると、すばらしいオーケストラ、歌手、指揮者がいて、ときにはコーラスやダンサーも出演し、デザイナーの考えた美しいお衣装が見れて、芸術家が工夫を凝らした舞台セットも鑑賞できる。そして何より偉大なる歴史的作曲家が作曲した名曲が聴けるのです。これほど贅沢な芸術はありません。


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劇場のエントランス。入り口を入るとまずこのホールに、公演前や終了後にはとてもおいしい食事が食べられます。


確かに外国語の歌詞を聞き取り理解するのは難しいかもしれませんが、
それはお能や歌舞伎の歌詞を聞き取り理解するのが難しい日本人の私たちと同じように、実はヨーロッパの母国語の人だって難しいのですからそんなに気にすることはありません。まずは肩肘を張らず、「視覚でも楽しめる音楽会」にでもきたようなつもりで楽しんでみるのはいかがでしょうか。


◆釣さんのご所属される 劇団について…


ヨーロッパ、アメリカでなく、日本の演劇界でもとても顕著で、フランスを代表する現代演劇の劇団といえば、演出家、アリアーヌ・ムシュキン率いる「太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)」です。太陽劇団は、2001年9月に期待の来日を果たし、東京の新国立劇場での公演は大センセーショナルをおこしたという話を聞いています。


本拠地はパリ東側にあるヴァンセンヌの森というところの中で、戦時中は弾薬庫であったところを劇場にしていて、それはまるで森の中にひっそりとたたずむ、秘密の小屋のようです。周りには広い芝生や馬小屋、ちょっと歩けば広い湖があったりと、非常にのんびりしたところで、パリという大都市にいることを忘れてしまいそうになります。そんなところで劇団員30人、その他スタッフ30人のあわせて60人が日々、納得のいく舞台作品を作るため、力を合わせて制作に取り組んでいます。皆、仲がよく、仕事は何でも助け合いながらこなし、掃除も当番制、食事も大食堂で共同で作り、毎日皆で一緒にご飯を食べます。その姿はさながら小さな王国といったところでしょうか。60人全員がこの劇場を愛しており、誇りを持って活動しています。その姿は人生をかけているといっても過言ではないと思います。


この劇場は常にいろいろな作品を交互に公演する、「レパートリーシステム」ではなく、いったん公演が始まるとその作品で数ヶ月から、ツアーを含めれば、数年にもわたるロングラン公演を行い、それが終わると一定の準備期間を経て新作を発表するというスタイルをとっています。


もうこの劇場ができてから40年にもなる訳ですが、パリやフランス国内には根強いファンがいて、毎回新作を楽しみにしています。40年前に学生だったファンが今では子供や孫を連れて家族で見に来るのです。一度見た人はその公演のすばらしさに虜になります。何とも言葉にできないエネルギーを舞台から感じるのだとおもいます。空間が持つ雰囲気や役者同士の連帯感、音楽、舞台美術や衣装の統一感、手作りの会場や客席のなどからも、あふれるほどのこだわりとおもてなしの心が伝わるのかもしれません。


そのため、このパリ中心地から離れた「秘密の小屋」にも、毎日の公演はほぼ完売になるほどの観客が押し寄せます。地元でもこの劇団のチケットの入手はとても難しい、と噂になるほどです。


2006年に前回の作品が発表されてからずいぶん日が経ちました。新作に関しては、当初2009年10月に予定していた初日は、非常に難しい演出コンセプトである、などの理由から大幅に延期され、試行錯誤を繰り返し、結局12ヶ月という長期の稽古期間を経てようやく、今年の2月に初日を迎えました。5年ぶりの新作の題名は【LES NAUFRAGES DU FOL ESPOIR】日本語に訳すと「大きな希望をのせた難破船」といったところでしょうか。世界初の無声映画を作る、という製作現場が舞台でそれに第一時世界大戦と植民地時代の政治批判などを盛り込み、しかしコミカルな明るいタッチに仕上げた作品です。普通は演劇にとっては台詞がとても大切といわれますが、なんと今回は台詞の力に頼ることなく、公演の3分の2ほどは無声で演じられます。


本当に演出技術のすばらしい舞台作品は言葉がわからなくても、十分楽しめ、感動を味わうことができるものですが、この作品はほんとにこのことを証明しているようです。


フランス語は難しいので演劇はどうせ理解できない、、、と思っていらっしゃる方が多いと思いますが、そんなことはありませんよ!この不思議なパリの森の仲にある「秘密の小屋」ですてきなフランスの演劇体験をされることをおすすめします!


◆パリで会話に花の咲く一言


Merci, au revoir!
ありがとう。 さようなら!
Merci, a bien tot!
ありがとう、またね!