2009年03月 アーカイブ

2009年03月29日

2009年4月のスケジュール

2009年4月は、FM番組「月刊寺島実郎の世界」が毎週末放送されます。
前半2週は、過去に放送した中から寺島実郎が「歴史観」を語るコーナーを取り上げ、4月新年度のスタートに向けたメッセージとともに再構成してOAいたします。

□2009/4/4(土)05:00~
(首都圏以外)FM「月刊寺島実郎の世界」

□2009/4/5(日)07:30~
(首都圏のみ)FM「月刊寺島実郎の世界」

■2009/4/5(日)08:00~
TBS系列「サンデーモーニング」

■2009/4/10(金)21:54~
テレビ朝日系列「報道ステーション」

□2009/4/11(土)05:00~
(首都圏以外)FM「月刊寺島実郎の世界」

□2009/4/12(日)07:30~
(首都圏のみ)FM「月刊寺島実郎の世界」

■2009/4/17(金)06:40頃~
NHKラジオ第一「ラジオあさいちばん」
※うち、『ビジネス展望』コーナー

□2009/4/18(土)05:00~
(首都圏以外)FM「月刊寺島実郎の世界」

■2009/04/18(土)08:00~
讀賣テレビ系列「ウェークアップ!ぷらす」

□2009/4/19(日)07:30~
(首都圏のみ)FM「月刊寺島実郎の世界」

□2009/4/25(土)05:00~
(首都圏以外)FM「月刊寺島実郎の世界」

□2009/4/26(日)07:30~
(首都圏のみ)FM「月刊寺島実郎の世界」

■2009/4/26(日)08:00~
TBS系列「サンデーモーニング」

第17回目

木村>  前回の放送では「オバマのグリーン・ニューディールは成功するのか?」という事で、「グリーン・ニューディール」というものを据えて、課題と可能性のお話を伺いました。その中で私たちも色々な事が見えてきましたが、今朝のテーマは「寺島実郎が見た日米関係の新局面~アメリカ東海岸報告~」、「ジャパン・ファーストの裏側」となっていて、いくつかテーマが分かれていて、ここから色々な問いが生まれると思います。
 寺島さんはアメリカに2月の末から3月初旬にかけていらっしゃったそうですが、オバマ政権が発足した後のアメリカは一体いまはどうなっているのでしょうか?

<寺島実郎が見たアメリカ経済の実状>


寺島>  オバマは現在、最初の100日間というところを走っています。私はニューヨークやワシントン等アメリカ東海岸を動いて定点観測のように重要な人たちと会っているのですが、今回も色々な人たちと話してみて考えるところがありました。
まず、非常に印象深かったのはアメリカの週刊誌等にも登場して来ているタイトルで「アメリカは社会主義の国なのか?」というものがあり、「社会主義」という言葉が蘇って来ています。20年前に冷戦が終わり、社会主義が終わったと言われて、東側が崩れてソ連は崩壊し、資本主義が勝利したという感覚で生きて来た人間からすると、ギョッとするような「社会主義」という言葉が堂々と雑誌等のタイトルになるほどアメリカのおかれている現状は複雑なのです。
要するに、アメリカは新自由主義の国であり、特にレーガン政権以降の約30年近くは小さな政府であり、規制緩和で競争主義、市場主義の徹底によって民営化をして来ました。アメリカは小さな政府を求めて市場に任せると言うか、国家が介入する経済ではなくて、自由な市場の役割を物凄く評価をする政策を展開して来ていたのです。しかし、市場の魅力というものが限界に突き当たって、私たちが目撃しているサブプライム問題等のように、規制なく市場に任せておいたら、結局どうにもならない混乱の中に入って行ってしまいました。ここのところアメリカがやっている事は規制であり、介入であり、政府のインセンティブであり物凄い勢いで国家管理経済に向かっているような状況で、ある意味「社会主義的」なのです。
例えば、オバマ政権はAIGに対し、800億ドルにも上る政府資金の注入を行っています。これは直接資本注入なので国家管理の国有企業か? という状況にまでなって来ています。更に、シティーグループへの資本注入が450億ドルで、そのうちの250億ドルを普通株に変えています。つまり、議決権36%は国家が持っているという金融グループになってしまったのです。
 
 
木村>  国営銀行に近いのですか?

寺島>  国営銀行だと言ってもいいくらいです。それに加えて、自動車産業までが国家が介入して資金注入をしなければビッグ3も持ちこたえられないというところまで来ています。これは皮肉でも何でもなくて、アメリカという国は国家管理経済の国になったというに近い状況なのです。
そして、2月に開催されたスイスのダボス会議においても中国の温家宝首相やロシアのプーチン首相までがやって来て、「まさに自分たちの国のように、国が経済に介入して管理しているほうがむしろ有効なのだ」という事を聞かされるはめになってしまったのです。要するに、皮肉とも何ともつかない状況なのです。そして、AIGが国家管理のような状態になって、国からお金を入れてもらいながら、それでも日本円で161億円のボーナスを役員に配るという話があり、オバマ大統領は「それはけしからん。何としてでも法的に止めなければならない」という事になり、自由主義と言われて来たアメリカの経済にも段々と縛りがかかって来ているのです。
 私は今回、ウォールストリートの関係者の人たちとも会いました。「アメリカン・ドリーム」という言葉がありますが、「消費は美徳であり、努力をすれば金持ちになり、才能のある者が金持ちになるのだ」、自分たちがこんなに豊かな生活をしているのは、マネーゲームをやったからで、「自分に才能があるから金持ちになったのだ」という素朴な幻想の中を走って来た彼らは、「もはや、ここはアメリカではない」と言っていました。行き過ぎたマネーゲームを規制しようという動きの中でどんどん縛りがかかって来たからです。例えば、マネーゲームで巨万の富を得てさっさとフロリダに引退してモーターボートを所持して酒池肉林のような生活をする事がアメリカン・ドリームであり、それが許される国だからこそアメリカは面白かったのではないかと思います。しかし、現在は「もはやここはアメリカではなく、面白くない」という空気が漂って来ているのです。事実、数字で検証してもGDPに対する政府支出の比率が何パーセントくらいなのか? という事が大きな政府なのか、小さな政府なのかという時によく言われる数字なのですが、それが今、アメリカは約40%になって来てしまったのです。今度の緊急経済対策だのなんだのという手を打って、政府支出によって景気を浮揚しなければならないのです。この比率は、欧州が平均47%くらいだと言われています。
 
 
木村>  欧州は大きな政府の政策をとっているところが多いのですね。

寺島>  同じ資本主義と言われていても欧州は「ユーロ社民主義」(註.1)というもので、社会主義的な政策を引きずっています。何故ならば、欧州は必ず一度や二度は社会主義政権の下におかれた時期があって、社会主義の亡霊と向き合った事が欧州の20世紀だったのです。しかし、アメリカという国は「骨の髄まで資本主義の国だ」と言われるように、一度も社会主義政権をつくった事もなければ、社会主義政党など育った事すらなかったのです。
そのアメリカのGDPに対する政府支出の比率が40%を超え、欧州なみの47%に迫って行くのではないのかという状況になってしまいました。つまり、「ここはアメリカではない」という事なのです。そして、「格差と言われようが、差別と言われようが、力のある者がより強くなってより金持ちになる事に何か問題があるのか?」というような勢いで生きて来た国が「待てよ」と考え直し、ここまで行き過ぎたマネーゲームに対して規制をしなければならないという事になったのです。世界中がその事によって大きな不況の中に入っているので、オバマ政権としてはそこに踏み込まざるを得ないのです。そこで、オバマが真剣にアメリカの再生に踏み込めば踏み込むほど、皮肉な言い方をすれば、この国を社会主義化して行かざるを得ないような事になってしまいました。何故ならば、現在私たちが直面している危機の本質は、「アメリカというメカニズム」に由来したものだからです。
この番組で何回も議論をして来ましたが、アメリカという国のメカニズムとは何かと言うと、産業が持っている実力以上に過剰消費社会を享受し、産業が持っている実力以上に過剰な軍事力を持っているという事です。何故そのような事が可能なのかと言うと、世界経済からアメリカに金を吸い寄せて、それによってアメリカを回すというメカニズムで動いて来ていたからですが、そのメカニズムそのものがサブプライムのような悪知恵を呼んで世界中が凍りつく結果を招いてしまいました。そして、アメリカを変えようとするならば、まさにそのメカニズムそのものに対して踏み込んで行かざるを得ないようなジレンマに陥っているのです。
したがって、オバマが真剣になればなるほど、この国の空気を本質的な意味で変えていかざるを得ないのですが、はたして、それが出来るのか? うまく行くのだろうか? という疑問を残しながら走っているという印象を強く受けましたし、その象徴として、「社会主義」という言葉まで登場して来たという事になるのです。
 
 
木村>  寺島さんのお話を伺っていると、「今回の金融危機は第二の壁の崩壊」だと思います。一度目はベルリンの壁が崩壊して、社会主義が崩壊しました。そして、今回はウォールストリート……。これは少しジョークのような感じですが、まさに「ウォール」=「壁」が崩壊して、アメリカが豊かさの仕組みを変えざるを得なくなったわけですね。

寺島>  どこまで変え切れるのか、結局は中途半端なもの終わるのか、それとも本当にアメリカそのものを根底から変えるような革命的な挑戦になって行くのかどうかいまはまだ分かりません。
<ジャパン・ファーストの意味>

 
 
木村>  そこで、今朝のテーマのもう一つ「ジャパン・ファーストの裏側」ですが、この「ジャパン・ファースト」というものは、ヒラリー・クリントンさんが日本に真っ先に来日したという事も含めて随分と話題になりましたね。

寺島>  「日本優先主義」とでも言いますか、「日本を大事にしています」と最初に力を入れているという事を表現するのが「ジャパン・ファースト」の意味です。日本人を見ると、半分ジョークも込めて「いまワシントンはジャパン・ファーストだから」と言います。これはどういう事かと言うと、国務長官のヒラリー・クリントンがアジア歴訪した際、最初の訪問国が日本であり、最初にホワイトハウスを訪れた外国の首脳が、日本の麻生首相だったわけです。要するに、アメリカの新政権が、いかに日本を大事にしているのかという事を表現するのが「ジャパン・ファースト」なのです。
 私は、今回、アメリカで「ジャパノロジスト」と呼ばれる人たちにも会って来ました。分かり易く言うと、ワシントンで日本問題によって飯を食っている人たちです。今回、みなさんが口をそろえて、ある種の自慢話として、「日本人は神経質でいつも自分に不安を感じているから顔を立てなければならない」とか、「まず日本から入って最後に中国へ行くという順番でアジア歴訪をすべきだ」とか、「まず顔を立て麻生さんを呼ぶべきだ」と自分がアドバイスをして、更に自分の影響力を行使して、それが実現したという事を私に一生懸命アピールをしていました。私がこれを聞いて少し苦笑いを覚えるのは、日本人は非常に過敏であるから顔を立てないと拗ねてしまい、自分がないがしろにされていると感じるとすぐに「ジャパン・パッシング」で日本はのけものだとか、素通りされている心理になりがちなので、まずは顔を立ててやるべきだと日本人の深層心理につけ入ると同時に、請求書を置いて行くような点です。要するに、「日本人は、顔を立てて請求書を置いて行く」。しかし、実際に中身のあるアメリカの戦略に関わるような議論は中国と大いに踏み込んで行なうという事が一つの流れになっています。事実、ヒラリー・クリントンのアジア歴訪もそのような展開の中で、確かに日本に最初にやって来て、日本の顔を立てて、日本人の心をくすぐるようなメッセージを発信して行ったと言って間違いないと思います。
 あの時に象徴的な表現があった事を思い出してもらいたいのですが、「日本人は拉致問題に対して凄くナーバスになっている。拉致問題だけは避けては通れないので必ず言うべきである」と彼女にアドバイスをして、実際にヒラリー・クリントンが言った表現は、「拉致家族の面談に関しては国務長官としてではなく母として、娘として痛みを分かち合いたい」というような類の事を言った事です。
 
 
木村>  それは日本人には非常にうけたのでしょうか?

寺島>  日本人は、ヒラリーは、わかってくれているのだと受けとったのでしょう。何故ならば、愛されたい症候群で、愛されていて自分は理解されているのだと思って、スッと心を和ませるのです。しかし、真面目に冷静になって言うと、「拉致問題という非常に政治化した問題に対して国務長官という立場で向き合ってもらいたい」、「国務長官として会うべきだ」というのが本当の話ですが、「国務長官」としてではなくて、「母として」、「娘として」というところに万感のメッセージが込められているのです。そして、問題は人情の物語の方へすり替わってしまい、いかに日本が大事にされているのかという論点になりました。
そこで、私が一番注目した事があります。以前にこの番組で話しましたが、予想していたようにアメリカの財政赤字はこれから物凄い勢いで拡大をして来ます。そして、アメリカ国債を中国と日本が買い支えている構図になっています。中国は約7000億ドル、日本は約6000億ドルのアメリカの国債を持っているというポジションになっています。中国はやって来たヒラリーに対して、この先、国債大量発行によってドルが下落して行くという事になったのならば買っても目減りをしてしまい、それは嫌なのでせっかく持っているポジションの安全性や安定感を確保するために、世に言う「パンダ債」、つまり「中国の元建でアメリカの国債を持たせて欲しい」という事を要求し始めています。
一方、日本は非常に従順な国で、本当ならば円建で米国債を持たせてくれと言ってもちっとも構わないのですが、アメリカの期待にそってドル建にしているのです。アメリカ政府は、今年度は赤字が1兆8000億ドルになると言われていて、来年度も1兆2000億ドルになるという予算を発表しています。そのため、1兆ドルを超す財政赤字を埋め合わせる国債の発行が十分に予想されます。それを結局は日本と中国に買ってもらわなければならないという構図になっているのです。それがヒラリーの腹の中に大きくあって、日本では「日本を大事にしています」というメッセージで先程、「請求書を置いていく」という表現をしましたが、「ひとつ、よろしく」という事なのです。中国に行った時には、サブスタンスのある議論と言いますか、非常に緊張感に満ちた実態のある議論を行なって、色々と丁々発止のやりとりをして来るという構図になっている事は間違いないのです。
 これまでアメリカに対して日本は、例えば、防衛安全保障でも依存している構造にあって、小泉さんはイラク問題の時に「日本を守ってくれるのはアメリカだけだ」という言い方をしていて、「日本はアメリカに依存している国でアメリカについて行くしかないのだ」というロジックが繰り広げられていました。しかし、私たちがいま本当に気がつかなければならない事は、「アメリカが日本に頼らざるを得ない構図に日米の位置関係がじわりと転換して来ている」という事です。米国債についてアメリカは日本に国債を買ってもらわざるを得ないという構図が一つあります。そして、オバマ政権がアメリカを変えるキーワードとしてグリーン・ニューディールで勝負に出て来ていて、「再生可能エネルギー」=「太陽光、風力、バイオマス等」でアメリカのエネルギー体系を変えようとチャレンジをしています。そして、太陽光にしろ、風力にしろ、バイオマスにしろ、アメリカが本気になってそれらをやろうとすればするほど、日本の技術に依存せざるを得ないという実態になっている事がより鮮明になって来ています。日本の技術基盤がグリーン・ニューディールを支えて行く大きなキーワードだという事は明らかに見えて来ていて、日米の産業協力を是非とも進めなければならない状況にあることは確かです。つまり、アメリカがいま本気でやろうとしている事をやればやるほど、景気対策にしろ、国債にしろ、グリーン・ニューディールにしろ、日本に頼らざるを得ないという力学が働いているからこそ「ジャパン・ファースト」と言うのです。
今回、オバマ政権はイラクからアフガニスタンに兵力をシフトしてアフガニスタンに向き合おうとしていて、アフガニスタンに17,000人増派してでもやろうとしています。しかし、アフガニスタンはパキスタンとパッケージになっています。この間ヒラリー・クリントンがアジアを歴訪して明らかになった事は、インドネシアに行ってみて、インドネシアは世界最大のイスラム国家であり2億人を超すイスラム人口を抱えていますが、それらの人たちがイラク戦争を境にアメリカに対して非常に敵愾心を燃やしているという事を確認したのです。比較的親米的な国であるインドネシアにおいてさえ、そういう状況になっているのです。その事実が、イスラム圏におけるアメリカの不人気というか孤立を垣間見せたのです。そして、問題はパキスタンを安定化させなければならないのですが、親米的であったムシャラフ政権が倒れて混迷しているパキスタンに対してアメリカが影響力を行使しようとすればするほど、焦れば焦るほど噛み合わずに反発にあってしまいます。日本はと言うと、パキスタン、或いはイスラム圏に対して非常に良いポジションにいます。したがって、アフガニスタンを安定させるためにもパキスタンを安定させるにも日本の役割は非常に重要で、アメリカの期待も大きいのです。そのように、経済協力を安定化させるなどの様々な試みになんとか日本の力を引き込みたいという空気が溢れているという事がよく分かりました。
更に、米軍再編によるグアム島への移転費用等がおそらく1兆円に迫るような額になりますが、それを日本が負担するという事になると思います。要するに、あらゆる意味でアメリカが様々な政策を展開をしようとすればするほど、日本に頼らざるを得ない方向に向かっている事だけは間違いないのです。そのような中である面ではいま大きな転換点であり、チャンスであり、日本とアメリカとの関係を本当の意味で大人の関係にして行くためのしっかりとした問題意識を日本人は持たなければならないと思います。そして、世界におけるアメリカの求心力が急速に落ちている時に、同盟国としての友情を込めてアメリカをアジアから孤立させずに、更に、世界経済のためにもアメリカの新政権を支える事も必要なのです。
 要するに、経済の関係においてはより踏み込んだ関係をつくり、軍事安全保障の関係においては大人の自立した関係を日本が求める方向をしっかりとバランス良く組み立てて行く事が今後の日米関係にとって物凄く重要であり、それはまさに「ジャパン・ファースト」と言っている言葉にくすぐられてニコニコしている場合ではなく、日本側から「ジャパン・ファースト」を越えて踏み込んで行かなければならないという極めて大切なところにあるという事が私の今回の総括であり印象です。
 
木村>  今朝のメインテーマは「寺島実郎が見た日米関係の新局面」でした。つまり、日米関係はそのような大きな転換期にあるという事を日本の私たちが認識出来ないと大きな不幸にも繋がり、世界にも日本が何か役立つ事も出来ないという構造を私たちが寺島さんのいまのお話を伺って改めて知る事になりました。

(註1、市場主義過剰の中で生じる不条理に対し、『分配の公正、雇用の安定、環境保全、福祉の充実』などの社会政策によるバランスをとろうというヨーロッパにおける思潮)