2008年04月 アーカイブ

2008年04月27日

第1回目

「月刊 寺島実郎の世界コンセプト」
木村> 寺島さん、今朝が記念すべき第一回目の放送となるのですが、まず、この番組で何を目指すのか? ということについてお話し下さい。
寺島> 私は、岩波書店で発行している「世界」という月刊誌に「脳力のレッスン」という連載を6年半続けています。「脳力」=「のうりき」というのは、「脳味噌」の「脳」と「力」と書くのですが、どういう意味 かと言いますと、「物事の本質を考える力」というようなことになります。 物事を深く考えて本質を見極める方法というものは、いくつかの方法しかないと思っています。その一つは、長い歴史の中で「自分たちが一体どういうところに立っているのだろうか?」ということを自問自答していく問題意識=歴史軸ですね。もう一つは、世界の広さというものに目を向けて、「自分たちが生きている国なり地域なり自分自身なりがどういうところに位置付けられているのか?」ということを考えることで、この縦軸と横軸の中で自分をどこに置くのかという見方が深まってくると物事の本質がだんだん見えてくると思います。
そういう意味で、広い話題の中で、ラジオを聴いている若い人達に 「一緒にものを考えていくような座標軸を提供できればいいな」と考えています。
木村> その意味では、リスナーのみなさんとともに「寺島ワールド」の発見と冒険の旅をして行くということになりますね。
寺島> テレビのように関心が分散していくメディアではなくラジオというメディアではリスナーと並走して行くことができると思うので、そういうところに期待しているんです。


「松前重義と内村鑑三の精神に何をみるのか?」
木村> 第一回目のテーマは、「松前重義と内村鑑三の精神になにを見るのか?」・・・・・・。ちょっとクイズみたいな設定ですが、どういうことで しょう。
寺島> 松前重義といっても若い人は殆ど知らないと思いますけれど・・・・・・。 我々は今日、半蔵門にある「FM東京」に来ているわけですが、この「FM 東京」を創った人が松前重義という人です。 僕は、松前さんが日本の戦後に於いて果たしてきた役割というものは大変多いと思っています。 「FM東京」というのは、もともと1958年に「FM東海」としてスタートして、1960年に実験放送を開始しています。何故「FM東海」なのかと言いますと、「東海大学」の「東海」からつけた局名だったからです。そして、「東海大学」の前身となる「電波科学専門学校」を創設した人が松前重義なのです。 1970年に「FM東海」は、局名を変えて「FM東京」となり現在に至っています。つまり、松前重義さんが、「東海大学」の創立者であり「FM東京」の創業者なのです。 その松前さんが、一体どういう足跡で「東海大学」を創ったり「FM東京」を創業したのかということに僕は大変関心を持っているわけです。「東海大学」が、松前さんの足跡を示す記念館をつくっているのですが、それを見てドキッとしたことがあるんです。松前さんというかたは、1901年に熊本で生まれています。といとは、正に20世紀が始まった年に生まれたということですね。
で、90歳まで生きるんですが、官立熊本高等工業高校から東北帝国大学の電気工学部を出て、逓信省に就職して、その分野で多くの発明などをした人なんです。そういうかたが、どうして「東海大学」を創ったり、「FM東京」を創業したのか? と思って足跡をたどってみましたら、大学を卒業して逓信省に入った23歳の頃、歴史的な、所謂、 「札幌農学校」(現在の北海道大学)を出て、「聖書研究会」というものを指導していた内村鑑三に出会うんですね。内村鑑三と言えば明治時代の青年たちが心をときめかせた知的リーダーの一人です。
木村> 日本のキリスト者の中で無教会主義というような説明もされているかたですね。
寺島> そうです。要するに教会に行ってキリスト教徒になるというのではなく、聖書の本質に迫ろうということですね。その内村鑑三の精神に基づいて教育とか人生とかいうものを考え直して、「東海大学」や「FM 東京」を創ったということが記念館に展示されていたわけです。それを知って「ドキッ」としたわけです。


「デンマルク国の話」
寺島> 内村鑑三が書いた本に、「デンマルク国の話」という小作品があるのですが、「デンマルク国」というのは、デンマークという欧州の小さな国のことですね。内村鑑三がこの本を書いたのは、1911年のことで、どういうことが書かれているかと言いますと、デンマークは1864年にドイツとオーストリアと戦争をして敗れるのですね。(プロ イセン、オーストリア連合対デンマークの戦争。シュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争。『デンマーク戦争』とも言われる)。敗れて国土の三分の一をとられてしまって、国民が失意の底にある時、そのデンマークを甦らせた人のことが書いてあるんです。ダルガスというリーダーが出てきて、デンマークの人たちに「戦いに敗れても精神は敗れない民が本当の偉大なる民なんだ」ということを呼びかけて、何も残っていないけれど、ユトランドの荒野、荒れた土地をバラの咲く土地にしようじゃないかと言って・・・・・・。
木村> 「緑」で。(『緑色』は平和を象徴する色という意味もある)
寺島> 緑で。農業によって国を甦らせていくという話なんです。まあ、現在のデンマークの礎を築いた人と言えば分かりやすいかもしれません。 この本に松前重義さんは物凄く心を打たれるわけです。つまり、その何十年後かに日本も戦争に敗れて、そこから日本がどう甦っていくのかを予感したかのような内容ですから、松前さんは非常に心を打たれたわけでしょうね。 で、松前さんは、1933年にドイツに留学するんですが、その際、内村鑑三が言っていたデンマークというのはどういうところなのか、ということを自分の目で確かめに行って、国民の教育、つまり、どんな状況に立っても人間の心を強く保っておくものというのは、一体なんだろう? と深く考えるわけです。それが教育というものに彼の問題意識を向かわせていく大きなきっかけとなって、東海大学を創ったりすることに繋がっていくわけです。
つまり、そこに内村鑑三という大きな存在が横たわっていたのですね。僕がドキッとしたもう一つの理由がそこにあるわけです。更に、このデンマークと日本は、情報通信の分野でも深い関係があります。日本がまだ、戉辰戦争だなんだと言っている頃、つまり、明治3年にですね、ウラジオストック-長崎の間に海底ケーブルの敷設を決めるのです。それで、翌年の明治4年=1871年には、ウラジオストックと長崎間の海底ケーブルが敷設されます。明治4年の段階で、 長崎においては、電話回線を使って欧州の動向が7時間で伝わって来ていたということですね。
木村> つまり、その当時の文化の中心であったヨーロッパの情報が送られていたということですね。
寺島> そうです。そこにデンマークが登場するんです。この海底ケーブルを敷設した会社は、「グレート・ノーザン・テレコム」というデンマークの会社だったのです。日本語では、「大北電信」と訳したようですが・・・・・・。 デンマークのコペンハーゲンからバルト三国のラトビア、そして、モスクワ、イルクーツク、そして、ウラジオストックというようにシベリアを越えて長崎まで繋がったということです。     そういう中で、松前さんが発明した技術が後に朝鮮半島と日本の間を海底ケーブルで繋ぐことに活かされていたり・・・・・・。なんて言ったらいいでしょうか? 松前さんの不思議なデンマークとの関係や内村鑑三との因縁、また、情報通信との関わりとかっていうものに僕は思いを馳せてしまうのです。 内村鑑三、デンマーク、情報通信、そういう中で松前さんは凄く触発されて、その見識を活かして、今日の東海大学、そして、FM東京の礎を築いて来たということです。
木村> そのプラットフォームに今我々がいるということですね。


「後世への最大遺物」
寺島> そういうことですね。つまり、内村鑑三っていう人の、一種の「人 間山脈」じゃないですけれど、連綿として松前さんに代表されるような若者に訴えかけたものって一体なんだろう? ということを考える時に、「後世への最大遺物」という内村鑑三の著書のことを思い出すわけです。松前さんも、「デンマルク国の話」という作品と共にこの本を読んだと思うんですね。この本は、1894年に内村鑑三が箱根の芦ノ湖の湖畔でキリスト教徒のために行った夏期学校で行った講演をまとめたものなんですが、「我々は、人生にどういう目的を持って生きるのか?」「一体何を後世に残すことができるのか?」ということを自問自答したようなことをそのとき話しているのです。
木村> 今でいうところの林間学校みたいなものですかね。
寺島> ええ。それで、彼が言っていることが大変面白いのです。「自分たちが存在したという証として残せるものって一体なんだろう?」ということですが、例えば、不朽の名声だとか巨万の富だとか万人に称賛されるような文学作品を残すとか・・・・・・、そういうものが後世に残せるものと思いがちなんですが、そういうものというのは、非常に特殊な才能に恵まれた人だけに与えられるものかもしらんと・・・・・・。だけれども「どんな人でも残せるものが一つだけある」と彼は言っているのです。ここが、もの凄く心を動かすのですね。
木村> それは、どういうものでしょう?
寺島> それが何か?と言うと、「あの人は、真剣に真面目に生きた」とい う、「その生きた姿そのもの」って言いますか・・・・・・。つまり、「『あの人も一生懸命頑張ってああやって真剣に自分のテーマを追いかけて生き抜いたよな』ということ以上のものは残せない」ということがこの本に書いてあることのポイントなんです。 これって、実はもの凄い話ですね。彼は、「これこそが高尚なる精神というか生き方なんだ」ということを若い人たちに語りかけているのです。これ、実は大変意味深いなと僕は思うわけです。
松前さんもこの本を読んで、「自分が世の中に残せるものって一体なんだろう?」と考えたと思うんですね。確かに、彼が発明した技術の世界のことも尊い貢献かもしれませんが、彼が、真面目に生きて、そして、若い人たちに語りかけて、例えば、「東海大学」だとか、今我々が居る「FM東京」のようなものをつくって戦って行ったというか・・・・・・、なし遂げて行ったその生き方こそが素晴らしいわけです。 まあ、世に言う「背中を見る」ということですが、それこそが、その後を生きている人達にとって大変大きなインパクトというか、刺激を残しているのではないかと僕は思うのです。 つまり、松前重義氏がいて、我々がここにいて、その先に内村鑑三っていう人がいて・・・・・・。更に逆上れば、クラーク博士っていう存在があって・・・・・・。そうやって連綿と人が連なっているわけです。我々も誰かの背中を見ながら生きてきたんだけれど、我々も背中を見せていかなくてはならないと・・・・・・。これこそが「後世への最大遺物」であり、我々が今ここで話しているプラットフォームを作ってくれた人に対するメッセージかなと思ったりしています。
木村> 我々が、なにか人の志の有り様というのをですね・・・・・・。それから もう一つは、寺島ワールドのキーワードの一つに、「歴史というものを深く吸い込む」という言葉がありますけれど、歴史の中に我々が何を見るのかということで、まさに今生きるために何が必要か? ということが少し見えてきた気
がします。


「サブプライム・ローン」
木村> 私たちは志、そして、歴史をというものを深めながら「寺島ワールド」を旅していくわけですが、もう一つ、直近のところに目を向ける と、「サブプライム問題」があります、表面化してほぼ半年を越えるのですが、世界経済の動揺というものが一向におさまる気配がない。これを我々はどう見るかということですが・・・・・・。
寺島>  まず、根源的なことを言うと、我々は21世紀初頭という時代に生きているわけです。21世紀に入って7年間の地球全体の実質GDPがどう増えたかというと、去年の数字が加わって年平均3.2%の実質成長で地球全体のGDPが拡大したという時代を生きているということになります。     その間に世界の株式市場の時価総額が、年平均13.6%拡大しています。上海の株式市場に至っては、この間6倍まで時価総額を増やしたという数字が出てくるわけです。これが一体何を意味しているのかと 言いますと、我々の実質的な実態経済の拡大スピードを遥かに上回る勢いで、マネー・ゲーム経済と言いますか、金融経済が肥大している時代に我々は生きているということを意味する事になります。株価だけではなくて、エネルギーの価格だってマネー・ゲームの動向、つまり、過剰流動性のように世界のお金がどこに向かうかによってエネルギー価格でさえ乱高下するという状況を見せつけられているわけです。例えば、サブプライム・ローンの問題が爆発してから3ヶ月の間にニューヨークの先物原油価格は30ドル以上あがっています。では、その3ヶ月の間に世界の石油の需要構造が根源的に変わるような何か変化があったのかというと実質経済面では何も起こってはいません。今までアメリカの住宅市場に向かっていたお金が、住宅市場の信用が失われて、その結果、そのお金をどこに向けるかといった時に、例えば、一次産品だとか、エネルギーだとかっていう方にどっとお金が来ちゃったものだから、あっと言う間に1バーレルあたり30ドル以上も原油価格が値上がりするという状況になっているわけです。
木村> 確か、1バーレル70ドル原油というものが一つあって、今では110ドル以上になっていますね(4月24日現在)。
寺島>  ですから、我々が現在生きている時代の不安定要因の根源というのは、実態経済を上回る勢いでマネー・ゲーム経済が跋扈しているということにあると言えます。で、もう一方で、冷戦が終わってグローバル化という言葉が出て来てから16、7年経つわけですが、では、「グローバル化とは一体なんだったのか?」と言いますと国境を越えるお金の流動なんですね。そ  の反面として一番移動しにくいものが、労働力=つまり人間の移動なんです。そのギャップの中で今世界の様々な問題が起こって来ている のだと言えます。過剰なまでのマネー・ゲーム経済を一体どのようにして制御していっていいものかというのが、21世紀初頭の資本主義 社会が直面している最大の問題だと言っていいと思います。これから少なくとも10年ぐらいにわたって真剣に議論していかなければならないテーマだと思います。何故なら、このことをしっかり議論できる経済学がまだうちたてられていないということなんですね。
木村> これは是非番組の中でもテーマの一つとして取り上げて、更に深めたいと思います。



2008年04月~5月のスケジュール

OA日時  
番組タイトル    
2008/04/26(土) 05:00~05:30  

   FM「月刊寺島実郎の世界」
2008/04/27(日) 08:00~  

   TBS系列「サンデーモーニング」
2008/05/03(土) 17:30~  

   TBS系列「報道特集NEXT」
2008/05/09(金) 21:54~  

   テレビ朝日系列「報道ステーション」
2008/05/11(日) 08:00~  

   TBS系列「サンデーモーニング」
2008/05/17(土) 08:00~  

   読売テレビ系列「ウェークアップ ぷらす」
2008/05/19(月) 19:30~  

   NHK総合「クローズアップ現代」
2008/05/25(日) 08:00~  

   TBS系列「サンデーモーニング」